2010/07/04

Oscar Wilde: "Salome" (Hamstead Theatre, 2010.7.3)

奇抜な演出だが、空振り!
Oscar Wilde: "Salome"

Headlong Theatre and Curve Theatre (Leicester)公演
観劇日:2010.7.3  16:00-17:20
劇場:Hamstead Theatre

演出:Jamie Lloyd
脚本:Oscar Wilde
セット、衣装:Soutra Gilmour
照明:Jon Clark
作曲、音響:Ben and Max Ringham
movement:Ann Yee

出演:
Con O'Neill (Herod)
Zawe Ashton (Salome)
Jaye Griffiths (Herodias)
Seun Shote (Iokanaan, i.e., John the Baptist)
Vyelle Croom (Naaman)
Sam Donovan (The young Syrian)
Nitzan Sharron (The Cappadocian)
Tim Steed (The Jew)
Richard Cant (Page of Herodias)

☆ / 5

Donmar Warehouseのassociate directorで、"Piaf"、そして最近では私も2度見た"Polar Bears"などを演出しているJamie Lloydの演出作品。勿論脚本はOscar Wilde。奇抜な演出とは知ってはいたが、やはりそうだった。最初度肝を抜かれたが、しつこい。最後には退屈してあくびをこらえつつ見た。

ワイルドの劇というと、彼のウィットとファッショナブルな感覚が光る"An Ideal Husband"とか、"The Importance of Being Ernest"と、この"Salome"では随分作風が違う。前者のタイプも大好きなのだが、"Salome"のような耽美的な、世紀末美学全開の作品ももっと書いて欲しかったと思う。ダグラス郷との事件で、そんな間もなく逮捕されたのかと思っていたが、公演パンフレットによると"Salome"自体、計画されていたイギリスでの公演を、Lord Chamberlainの検閲により禁じられたそうである。道理でその後この種の作品を書かずに、コメディーへと向かわざるを得なかったわけである。その禁止の理由というのが、聖書の題材を劇にしたから、ということだそうだ。冒涜と見なされたのだろう。ちなみにLord Chamberlainの検閲が廃止されたのは1968年!戦後になっても、キリスト教の神をステージで演じることは出来なかった。この1968年というのは、ウエストエンドでの"Hair"の初演の年。イギリス演劇の大きな分水嶺の年だ。

さて今回の上演について。真っ黒なステージ、黒い砂を敷き詰めた様な床。まわりは鉄パイプが組んであり、俳優は時々よじ登ったりする。焼けただれた戦場にしつらえられた王の仮住まいか? 床の真ん中に預言者ヨカナーンの牢屋に通じるハッチみたいなものがある。男は皆迷彩服で、王ヘロデも、豪華な服ではなく、兵士と似たような粗末な灰色の服を着ている。サロメは盛りのついたティーンエイジャーそのもの。そのサロメもヘロデも、極端にデフォルメされたエロティックな動作を繰り返す。腰を振り、性行やマスターベーションのような動きを繰り返しつつ、様式的な台詞を放つ。背後では、ほぼずっと鳴り続けるズシンズシンというロックのベース音(これが私には非常に不快)。全てがそういう感じ。焼きすぎて、肉汁のうま味も出つくし、焼け焦げて味も何も分からなくなった焼き肉みたいなもの。ワイルドの耽美的美しさのかけらもなし。退廃的ではあるが。

サロメは盛んに首をぴくぴく神経質に横に振り、発作的な動作で品を作る。こういう特徴って、どこかで見たことがあると思ったら、昔テレビのインタビューで見たマドンナがこんな感じだった。極端な自意識過剰の若い女性に良く見られる動きだ。10代後半の女性にもちょくちょく見られるかな。

ヘロデは王としての威厳のかけらもなく、兵士達の隊長にしか見えない。下卑た動きを繰り返し、あまりに下品なので笑うことも出来ないようなコミカルさ。一方、妻のヘロディアスの屈折した様子は面白く見られた。

ヨカナーンは地獄の底から雄叫びを上げる怪物みたいな描かれ方で、かなりユニーク。鎖で縛られていても、兵士を怖じけさせる圧迫感を放っている。この公演の文脈では、全身、男根のシンボルみたいな男。その怪物の切断された、血のしたたる生首にSalomeはしゃぶりつく。

ロックを使うのも、戦場の廃墟の様なセットも結構だが、アクセントがなく飽きてしまった。もっとテストステロンあふれる若い観客だったら面白いと思うかも知れないが・・・。テキストに込められた様式美を生かした演出をしていれば、どんなにか印象的な舞台になったことかと思うと残念!この公演は、ヨカナーンと共に、ワイルドの詩的言語を意図的に虐殺した。また、この劇の最大の魅力は、救世主が生まれる直前の期待と不安、乱れた現世の退廃とやがてメサイアが来るという希望の入り交じる時代を背景にした聖と性のコントラストだと思うが、そういう事は、破壊的なヴィジュアル・イメージに飲み込まれて何も伝わってこない。Jamie Lloydの株は、私にとっては地に落ちた。

俳優達は大変な汚れ役を熱演していて、説得力に乏しい舞台に立たされて気の毒。そう思うのは私だけかも知れないが。

Hamstead Theatreには今回初めて行った。都心の、パブの2階などにあるフリンジとは大違いで、小さめだが、新しい立派な劇場。今回の公演を見ても、音響や照明の設備も一流のものと思う。ロビーも広々として、カフェになっているし、外のテーブルもある。早めに来て、お好きな方はワインを飲んだり、軽食を取ったりするのに良さそうだ。隣はイギリス風寿司レストラン(私は入っていませんので、味は知りません)。下はHamstead Theatreの入り口付近。




「日本ブログ村」のランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いします。

6 件のコメント:

  1. Yoshiさん、こんにちは。
    これ、ちょっと気になっていたのですが、ダメでしたか。
    悪趣味なポップスのプロモーション・ビデオみたいですねえ(笑)。
    ワイルドへの敬意や愛はなさそうで、残念。
    それでも踊りのところだけ、ちょっと見てみたいですけど。

    返信削除
  2. Lokiさま、ご訪問ありがとうございます。

    踊りは・・・ロックにのせた(ラップかな)ストリップです。最後には主役の女優さんが剥き出しのお尻を観客席向けて突き出して。こういう変わった趣向も、『ハムレット』みたいにしょっちゅうやっている劇なら物珍しくて良いかもしれないですが、滅多に上演されない劇ですから残念でした。ヨカナーンを地の底に閉じ込められた怪物みたいにしたのは面白い工夫とは思いました。 Yoshi

    返信削除
  3. こんばんわ。ロイヤル・オペラでシュトラウスの「ザロメ」が上演されていますよ。お口直しにいいかな、と。

    返信削除
  4. 守屋さま、情報をありがとうございました。

    そうですか。同じ『サロメ』でも大変な違いでしょうねえ。美しいだろうなあ。オペラというと、ミュージカルも見ない私には敷居が高いですが・・・。

    随分昔にバーコフがこの劇をやったそうで、それは耽美的でスタイリッシュで、大変好評だったようです。 Yoshi

    返信削除
  5. BPです。ここはよく行った劇場です。向かいがCentral School of Speech and Dramaですね。変わった演出のものが多く、当たり外れがありました。ブレヒトのトゥーランドットを見ましたがマンガチックな演出でした。僕は好きでしたけど。子供向けのプログラムもよくやっていました。Swiss CotageはJubelee Lineでしたっけ?Kilburnまで行くとTricycleという劇場もあります。あそこは遠くて小さいところですがやはり何回か行きました。このレベルになると(Donmarなどに比べて)当たり外れが多くなりますね。

    返信削除
  6. BPさま、コメントありがとうございます。

    そうですね。近くに著名な演劇学校がありましたね。私は昔この近くのホテルに1週間くらい泊まったので、懐かしかったです。Swiss Cottageへの地下鉄はおっしゃるとおりJubilee Lineです。Trycycleですか。行ってみたいですがなかなかそこまで手が回りません。 Yoshi

    返信削除