2012/03/29

"Collaborators" (Cottesloe, National Theatre, 2012.3.28)

スターリンとブルガーコフ
"Collaborators"

劇場:Cottesloe, National Theatre
製作:National Theatre
観劇日・時間:2012.3.28, 19:30-22:00 (1 interval)

脚本:John Hodge
演出:Nicholas Hytner
デザイン:Bob Crowley
照明:Jon Clark
音響:Paul Arditti
音楽:George Fenton

配役:
Mikhail Bulgakov: Alex Jennings
Yelena, his wife: Jacqueline Defferary
Joseph Stalin: Simon Russell Beale
Vladimir, a censorship officer: Mark Addy
Grigory, a young writer: William Postlethwaite
Praskovya, a teacher: Maggie Service
Anna, an actress: Jess Murphy
Doctor: Nick Sampson
Vassily, ex-aristocrat: Patrick Godfrey


今回は、疲れのせいか、食事が重かったのか、劇を見る前にすでにとても眠くて大失敗。前半ずっとこくりこくりしていて、半分居眠りしたままインターバルになってしまったので、ちゃんとした感想が書けない。でも後半はしっかり見たので、一応感じたとことを書いておこう。

John Hodgeが書いた新作戯曲を国立劇場の芸術監督Nicholas Hytnerが演出。彼はこうした政治劇は上手い。主演はAlex JenningsとSimon Russell Bealeという芸達者で、この3人なら駄作は考えにくいし、実際なかなか面白いアイデアを巧みに舞台化した作品だが、前半の眠気を吹き飛ばしてくれるほどではなかったし、一生懸命見ていた後半も、いまひとつ引き込まれなかったのは何故?私の期待が大きすぎたかも。

題材は、ソビエト連邦、20世紀前半の大作家ミカエル・ブルガーコフとソ連の文化統制、そしてスターリンとの関係。スターリンの支配下にあるソ連は、厳しく芸術家を統制し、また、全土で粛清を進めていたのは言うまでもない。その中で、体制批判の筆を折らずに何とか生き延び、かつ執筆活動を続けたいブルガーコフだが、仲間も発表の場を奪われ、自分自身や妻にも危険が迫る。国家の検閲官が彼の自宅を訪れ、彼をどこか分からぬ場所に連行するが、そこに現れたのはスターリンその人自身だった(ここはフィクション)。ブルガーコフはスターリンを英雄視する伝記劇を書くよう命じられるが、到底不可能と言う。そうするとスターリン自身がその原稿を書いて、それをブルガーコフの名前で発行するということにしようと提案。事実上の命令である。スターリンの自伝劇をブルガーコフが書いたことにするというのだ。その見返りとして、ブルガーコフは自分の新作『モリエール』の公演を許されるという条件である。一種の隠れた転向、仲間たちに対する裏切りである。スターリンとの役割の交代はそれだけに及ばず、二人で協力して執筆するうちに、ブルガーコフはスターリンに政治についてもアイデアを提供するようになる。そして、自分の友人たちにまで、強権政治を国家安寧のために正当化するようなことを言うようになった。そして、そのつもりではなかったにしても、ブルガーコフのその場逃れのアイデアがスターリンに取り上げられて、大粛清の引き金を引くことにさえなってしまう。

これをストレートにやると、国家権力の恐ろしさを描く非常にシリアスで暗い劇になりそうだが、Hytnerは、ブルガーコフの作品を手本として、大変幻想的で、ユーモアをふんだんに取り込んだ、謂わば、全体主義ソ連を舞台にした『不思議の国のアリス』みたいにして見せた。戸棚の中に若者が住んでいたり、その戸棚を入り口にしてスターリンが出たり入ったり。キャロルだけでなく、C S ルイスも思い起こさせる。役者が踊りながらテーブルや椅子を運び込んで場面転換をしたシーンなど、ファンタジックで、上手いなあ、とため息。俳優の演技も、演出意図に沿って、デフォルメした、やや漫画的でギクシャクした動きや台詞による人物造形である。全体としては暗く青みがかった照明に、明るいハイライトをさっとあてて、明暗がくっきり分かれる舞台作りも巧み。人の生死、歴史の動きを、乱調のジャズに乗せて表現した。

そう書いてみるととても面白い劇のようなんだが、いまひとつ心に響かないのはどうしてだろう。軽いトーンで進めてしまったために、スターリンの恐ろしさ、ブルガーコフの置かれた状況の悲痛さのインパクトが十分伝わらなくなった気がする。『アリス』的にしつつも、カフカの『審判』のような恐ろしさがかもし出せなかったものか、と残念。また、ブルガーコフがスターリンに利用されただけで劇が終わるのも、これでいいのか、という気がした。実際には、彼は作品の発表ができないまま、後にソ連時代の文学の金字塔となる名作をひそかに書き続けていたのではなかったか。私が居眠りしていて前半が良くつかめなかったのかもしれないが(というわけで☆は付けていません)。もっと良いコンディションで見たかった。もう一回しっかりと見たいものだが、残念。でもこの公演、4月31日からOlivierにトランスファーするそうだから、それから2,3ヶ月は続きそうだ。

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