2012/03/03

大英図書館特別展、Royal Manuscripts: The Genius of Illustration

Royal Manuscripts: The Genius of Illustration
大英図書館特別展「王室の手稿本:写本挿絵の天才」




British LibraryのRoyal Manuscripts展に行ってきました。もの凄い数の豪華写本に圧倒されました。数もすごいし、一冊一冊が途方もなく豪華!挿絵やページの周囲の装飾など、非常に手が込んでいる写本が多く、有名なベリー候の時祷書に匹敵するような美しい写本がたくさんあります!3月13日までの開催。昨日はかなり混んでいました。普通の絵画の展覧会のように観客が少し離れて鑑賞することが出来ず、皆、ディスプレイケースに覆いかぶさるようにしてじっと見ているので、少しでも混んでくると、かなり見づらくなります。

無料のオーディオガイドあり。448ページの豪華なカタログが出ていて、ペーパー版で25ポンドと割安です。落とすと足の骨が折れるくらい重いですけど。

私にとっては、絵の美しさとともに、そこに書かれている絵の内容に興味が惹かれます。多くの写本は聖書とか祈祷書で、聖書の物語の一こまが描かれているのですが、それが中世の聖書劇の内容とどう重なっているか、違っているかが、特に面白く感じました。また、描かれている人物の服、武具、食べている食物、建物や家具、動物などのディテールに興味が尽きません。

私は英文学を勉強しているので、普通、研究書についている写真とか、ファクシミリなどで接する写本は英語の写本が多いわけです。しかし、この展覧会では、庶民の言葉であった英語で書かれた写本が少ないのは想定できます。ラテン語の写本が多いのも、聖書とか祈祷書が多いため、当然です。一方で、色々なフランス語の写本が私が想像していた以上に多いのは、中世後期の王侯貴族の言語使用状況を考える上で、当然とは言え、なるほどねえ、と改めて思いました。

もうひとつ興味を引かれたのは、王室の女性たちが使用した本です。たとえば、Catherine of Franceの時祷書(Hours)やIsabel of Yorkの詩篇書(psalter)などが展示されています。こうしたラテン語の本を、おそらくこれらの女性は自由に読むことが出来、日常的に使っていたようです。また、子供の読み書きの教科書としてこれらを利用したかもしれません。こうした本は個人の祈りのための本ですが、同時に、大変小さくて持ち運びやすく、もっとも身近な持ち物のひとつとして、彼女たちの日常生活に欠かせないものであったことでしょう。王室の女性たちの多くの識字と教育程度がかなり高度なものであったことをうかがわせます。また、これらの私的な本には、本人か、あるいは他の人により、さまざまの大切な書き込みがなされて、一種の備忘録的役割も果たしたようです。

特別展は、入室できる出来る時間が決まっているので、私の予約した時間が来るまで常設展を見ていました。混んだ特別展と違い、常設展のほうは人も少なく、じっくり見られます。メルカトールの古地図とかシェイクスピア時代の劇の初期刊本など印象に残りましたが、特に、すでにこのブログでも触れたアングロ・サクソン時代の聖書、St Cuthbert's Gospelを見られたのは良かったです。これは、表紙をつけて製本された形で残っている本としては、イギリスのみならず、ヨーロッパで最古の本とされています。同じケースには中世初期の大知識人、ビードの『英国教会史』の写本も並んでいました。

更に、常設展では、Rheimsの司教Fulcoがアルフレッド王に宛てて書いた手紙(写し)が見られたのも嬉しかったです。王は大陸から知識人を集めるために、FulcoにGrimbald of St Bertinを送ってくれるようにと依頼をしていたのだということです。

豪華な彩色写本は、一葉一葉が精密な工芸品。それが一冊に綴じられて何十頁、時には百何十頁とかあるんですから凄いです。Jean de Wavrin (c. 1400-c. 1472[-75] ) の『イングランド年代記拾遺』というきわめて豪華な彩色写本が展示されていたのですが、全6巻本で、作者は完成までに22年を要したとか!写本の中身が読めるわけではないのですが、色々と見られて目の保養になった気分です。実はじっくり見ているうちに1時間以上経ち、疲れて集中できなくなって帰宅したのですが、まだ半分弱しか見ていないので、また行くつもりにしています。

どういう彩色写本があるか、一部がGuardian紙のウェッブサイトで見られます。

2 件のコメント:

  1. この展覧会のことは、研究会の先生から聞いて知っていたのですが、行けなくて残念。ちょうどRoyalの写本を研究しているので、行けるとよかったのですが、、、写本の研究は奥が深くて、片手間にできることではないですね。展覧会などに行くと、ますます奥の深さに圧倒されてしまいそうです。

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  2. この展覧会、そのためだけでも数日渡英する価値があるくらい凄いと思いました。本当に圧倒されました。フェルメールとかブリューゲルを見るためだけにヨーロッパに旅する人がいますが、この展覧会、西欧中世研究者にとっては、美術や写本が専門でなくても、是非見てほしい展覧会です。とは言ってももう来週火曜に終わってしまうのですが・・・。展覧会が始まった頃には、関連したレクチャーもいろいろあったようで、聞けなくて残念です。

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