2012/03/20

"Filumena" (Almeida Theatre, 2012.3.19)

苦しい人生をしぶとく生きぬく肝っ玉母さんの話
"Filumena"

劇場:Almeida Theatre
製作:Almeida Theatre
観劇日・時間:2012.3.19  19:30-21:30 (one interval)

原作者:Eduardo De Filippo
翻訳:Tanya Ronder
演出:Michael Attenborough
デザイン:Robert Jones
音響:John Leonard
照明:Tim Mitchell

配役:
Filumena: Samantha Shapiro
Domenico: Clive Wood
Rosalia: Sheila Reid
Alfredo: Geoffrey Freshwater
Umberto: Brodie Ross
Riccardo: Luke Norris
Michele: Richard Riddell
Diana: Emily Plumtree
Lucia / Teresina: Victoria Lloyd

☆☆☆/5

イタリアの20世紀中盤の大作家Eduardo De Filippoの劇。プログラムによると、ナポリの土地の文化と方言に深く根ざした作家だそうです。演出は芸術監督のMichael Attenborough。主演は演劇でもテレビでも人気者のSamantha Shapiro。Shapiroは、ロイヤル・コート'Chichen Soup with Barley'で見ましたが、今回もその時とやや似た役柄で、下町の肝っ玉母さん、という感じ。とても威勢の良い、貧しい中年女性をエネルギッシュに演じています。20数年間、お手伝いさん兼おめかけさんとして金持ちの愛人Domenicoに尽くしつつ、あちこち家計を節約したり旦那の物をくすねて貯めたお金を3人の隠し子(Umberto, Richardo, Michele)にこっそり仕送りして立派に成人させた女性。しかし、いつまでたってもDomenicoが結婚してくれないばかりか、ついには二十歳過ぎの若い恋人を作ったので、頭に来て一計を案じ、やはり使用人の老婆Rosaliaと、医者のAlfredoの手助けを得て、死にいたる大病に罹ったふりをし、彼からやっと結婚を勝ち取ります。でも謂わば詐欺で得た結婚ですから、そう上手くは行かず、その後旦那は弁護士の手を借りて結婚を解消しようとして紆余曲折。学問の無いFilomenaはまたまた苦労。でも最後はハッピーエンドの喜劇です。まあ、なんということも無いとも言える劇ですが、とっても楽しい気分にさせてくれました。Filumenaは食うや食わずで飢えに苦しむほどの生い立ち。教育も受けておらず、弁護士が法律文書を示しても、インテリの息子が手紙を書きたいと言っても、彼女は字が読めずお手上げ。若いときは売春まがいのことを(いや、完全な売春かも。英語がちょっと分からなかった)して生き延びました。ビットリオ・デ・シーカなど、ネオリアリズムの映画監督の作品で見るような、戦前や戦後すぐのイタリアの貧しさがうかがえる作品でもあり、その点はシリアスな底流が背景にあります。

Samantha Shapiroは気持ちの良い役柄と演技で、見て楽しい。また、Domenicoを演じたClive Woodは脂ぎった中年男(52歳の設定)にしっくり会う俳優。Filumenaを助ける老婆のRosaliaは、本当に年配の役者さんがやっているのですが、上手で、大変印象に残りました。劇場に入った途端に目が覚めるような鮮やかなセット。場面はナポリの下町の中庭ですが、明るい、赤みががかった茶色の建物の壁、緑と青の中間のような鮮やかな扉の色と、沢山の花やつる草の緑が大変きれいなRobert Jonesのセットと、それを引き立てるTim Mitchellの照明でした。

苦労の多い人生を、逞しく生きぬく庶民のお上さんを描き、短くて軽い劇ですが、とても幸せな気分になって劇場を出ることが出来ました。こういう劇も時々は良いな。

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