2012/03/11

Royal Manuscripts展 再訪

(Thomas Hoccleve, Regement of Princes, London, c. 1411-1413, Arundel 38, f. 37, from Wikipedia)


3月2日に行ったBritish MuseumのRoyal Manuscripts展覧会、あの日は十分時間をかけて見たとは言えなかったし、混んでいて見られない絵が多かったので、今日、2度目、行ってきました。今日は開館と同時に9時半過ぎ、入場。そして、前回見ないままに終わった最後のほうを中心にじっくり3時間以上見ました。開館時は、ほとんどの入場者が、当然ながら最初の部屋に固まるので、そちらを通過して真ん中以降を先に見れば、ほぼ貸しきり状態。もの凄く贅沢な気分で、それぞれの絵につけてある説明を全部ゆっくり読みつつ、時間をかけて鑑賞しました。

会場はコの字型になっていて、テーマ別に6つのセクションに分けられています。すなわち、
  1 Edward IV
  2 The Christian Monarch
  3 Royal Identities
  4 How to be a King
  5 The World's Knowledge
  6 The European Monarch
また、壁際に並んだ写本は、アングロ・サクソン時代、ノルマン朝、プランタジネット朝、チューダー朝、と時代順になっていました。8世紀から16世紀までの写本で、一部に彩色刊本もあったと思います。パンフレットによると、150冊以上の展示だそうです。

(以下、大英図書館のウェッブサイトに何度かリンクを貼ってありますが、リンク先の頁は最初は説明ばかりですが、下のほうにスクロールしていただくと、写本のサムネール・ピクチャーがありますので、クリックしてご覧になってください。更にそのピクチャーをもう一度クリックすると、拡大された写真も見られます。)

最初のセクションがEdward IVと銘打たれているのは、Royal Manuscript Collectionの中心をなすのが、Edward IV (在位1461-70 & 1471-83)が収集した豪華彩色写本50冊から構成されているためだということです。一冊一冊が、大変大きく、彩色も極めて豪華で細密。王家の至宝、という感じでした。一例をあげて、大英図書館のサイトにリンクすると、Jean de Wavrinのイングランド史、'Recueil de chroniques d'Engleterre' 。ほとんどがフランドルのブルージュ(現在、ベルギーの都市)で作られた写本です。この時代、ブルージュは西欧の豪華写本製作の中心地だったんですね。また、こうした写本の多くが、ブルージュなどのバーガンディー公国(フランドルを中心とした地域にあり、フランス国王に匹敵する国力を誇っていました)で作られていることは、当時のバーガンディーの豊かさと文化的影響力の大きさを感じさせます。

私は写本とか中世美術の知識はほとんど持ち合わせていないので、折角素晴らしい写本を見ても、ただただきれいだなあ、と感嘆するばかりで、猫に小判です。いくらか専門的な知識のある人ならずっと有意義に鑑賞できるんでしょうけど。でもただじっと見るだけでも楽しい。

今回の渡英、私のスーパーバイザーがイギリスを留守にしていて会うことが出来ず、一番大事な目的が空振りに終わってしまうのですが、しかし、この展覧会を見られたので、十分その埋め合わせが出来ました。本当に、中世の絵画を見るという点では、一生に一回の素晴らしい機会を与えられたと感じました。

中世末期やチューダー朝の写本の豪華さ、素晴らしさは言うまでもありませんが、私には、アングロ・サクソン時代やノルマン朝の写本も同じくらい感銘を与えてくれました。8世紀前半にリンディスファーンの修道院で作られた福音書(Royal 1 B vii)があり、開かれていたページには、ラテン語のマタイ伝とともに、古英語の文章も書き込まれていました。その文章は、当時のイングランド(ウェッセクス)王、Athelstan(治世c. 924/5-39)が奴隷のEadhelmを開放した、と言う意味のことが書いてあるようで、王の温情あふれる処置を記録したものだそうです。つまり、古英語の書き込みはずっと後になって追加されたんですね。

やはりこの時代の古い写本としては、11世紀の中盤のカンタベリーで作られた写本で、おそらく、大聖堂(Christ Church Monastery)で作られ使われた、色々な文章を集めたcompendiumと呼ばれる種類の本 (Cotton Tiberius A. iii.) がありました。ベネディクト会戒律集とか、様々な実用的、あるいは教育的文章が入っているそうですが、その中には、ローマ教会の儀式集成であるRegularis Concordiaもあるそうです。Regularis Concordiaに収められた復活祭の儀式の一部が、ラテン典礼劇として成長していく、つまり西欧における中世演劇の芽生えがこの本にあるわけで、そこのページが開かれているわけではないにしても、ちょっと感動!

同じくChrist Churchに関連する写本として、11世紀はじめに製作されたThe Cnut Gospelという写本もありました。ラテン語の福音書とともに、やはり古英語で、クヌート王とChrist Churchの結びつきを記す文が書いてあるそうです。

中世末の写本としては、有名なフロワッサールの年代記 (Jean Froissart, 'Chnonique') の豪華さ、精密さも素晴らしい!1500年頃、ロンドンで作られたと思われる'Speculum humanae salvationis'の写本Harley 2838では、開いたページにアダムとイブの堕罪、楽園追放、2人の労働する姿、そしてノアの箱舟、という4枚の絵が描かれていましたが、中世聖史劇の場面を想像しつつ鑑賞しました。楽園での堕罪の場面で、蛇が、胴体は蛇でも、顔は人間の女の顔をしているのです。これは先日、美術史家の金沢百枝先生が新潮社のウェッブサイトに書かれたことから教わった興味深い点。

著名な文学作品としては、中英語でThomas Hoccleve, 'Regiment of Princes'や、John Lydgate, 'Troy Book'、そして、仏語ではGuillaume de Lorris & Jean de Meun, 'Roman de la Rose'などの写本もありました(Lydgateや『薔薇物語』の写本は何種類もあり)。もちろん、それら以外にもかなりの文学作品がコレクションに含まれています。

Royal Manuscripts展では、今まで歴史の本の挿絵などで見た記憶がある絵にかなり出会いました。たとえば、Matthew ParisのHistoria Anglorumのウィリアム征服王の絵など、たびたび見ています。

3時間半近く立って見ていて、かなり疲れましたが、大満足で帰宅しました。

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