2011/06/05

"fee"という単語

前項まで2回に渡り、"fee tail"とか、"fee simple"について書いた。そこで"fee"という単語自体についても、少し捕捉してみたい。

"fee"は今日では普通「料金」という意味で使われ、「レッスン・フィー」のように外来語として日本語にもなっているが、上記のフレーズにおいては「土地」、「不動産」、特に歴史的な意味では「封土」、即ち、封建領主が臣下に軍役や忠誠と引き替えに分け与えた土地である。より細かくは、使用権を認め、またその使用権を子孫に相続する権利も認めた土地、ということになるだろう。従って、「相続不動産(権)」というような定義も英和辞典に出てくる。

語源としては、古仏語の"feu", "fief"、更にさかのぼるとラテン語の"feodum", "feudaum'等から来ているそうである。従って、語源としては、形容詞"feudal"(封建制度の、封建的な)の語幹と重なる。なお、名詞"feud"には"fee"(封土)と同様の意味もある(なお、より一般的な「確執」という意味の"feud"は別の語)。

元来、軍役や忠誠への一種の報酬として与えられた土地、"fee"が、何故、主たる意味が、報酬から「料金」に意味を転じたのか。実際、今は廃れた(archaic)な語義では、"reward"という定義もある。それは、例えば、弁護士とか医師の様な専門家がサービスを提供し、それに対する「報酬」が、専門家側から要求される「料金」となったためだろう。そもそも、概念として、「報酬」と「料金」の違いは、同じ「支払い」をどういう視点から表現するかの違いによると言えるだろう。次の例は、Geoffrey Chaucerの"The Canterbury Tales"からだが、興味深い:

Thus hath *hire lord, the god of love, ypayed            (their)
Hir wages and hir fees for hir servyse!
(The Riverside Chaucer, I (A) ll. 1803-04)

(和訳)このようにして彼ら [Arcite and Palamon] の主人、愛の神は
                 彼らが果たした労役に対する報酬を与え、支払いをしました。

"The Riverside Chaucer"のグロッサリーでは、この"fees"は"payments"としている。

次はやはりChaucerの"The Book of Duchess"から:

And thus this *ilke god, Morpheus,                      (same)
May wynne of me moo feës thus
Than ever he wan . . . . (ibid., ll. 265-68)

(和訳)
    そして、このようにしてこの神モルフィウス(眠りの神)は
     私(詩人)から以前にも増して更なる支払いを受けることが出来ます。

前者は神からの支払い(報酬)、後者は神への支払い(謂わば、料金)である。しかし、どちらも、神と人との関係において生じる支払いである点が、この語の出自と関連していると言えるだろう。領主と家来、神と人、というような関係の中で、恭順や奉公と、それに対する報酬というのが、この語の元来の背景だろう。

(付け足し)
ところで、イギリスで無収入の大学生をしていると、もちろん授業料の額やその値上げが大変気になるのだが、授業料は、アメリカでは主として"tuition"と言い、イギリスでは、"fee"、より正確には、"university fee"とか、"tuition fee"と言う。日本で英語を習う人は、「授業料」は"tuition"、と覚える人が多いのではないか。では、一体"tuition"とは何かというと、これは「教えること」(teaching) そのものである。それが、「教えることの料金」"tuition fee"というフレーズから、段々、"tuition"だけで授業料を表すようになったのだろう。従って、語源の上では、"tuition"は"tutor"とか、"tutorial"などと共通した語幹を持っており、最終的にはラテン語の"tueri" (to watch, to guard)に行き着く。

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