2011/06/06

BBCとITVの刑事/探偵物ドラマを見つつ思うこと

先日、ITVの秀作、"Vera"が終わったが、ここのところ、新しい刑事物ドラマが続々と始まりつつある。昨日からは、BBC 1で"Case Histories"、2夜連続のようで、今日がpart 2。主演の私立探偵役はJason Issacs。ITV 1では今晩から今週の土曜まで毎晩5夜連続で"Injustice"。心理スリラーのようだ。主演はJames Purefoy(先日、"Flare Path"の主役として劇場で見たばかり)とDervia Kirwan(Rupert Penry-Jonesの奥様)。5日連続と言うのが凄いね!毎日テレビばかり見ておれんが、ここのところ風邪でずっと具合が悪いので、テレビでも見て気を紛らわしている。

既に始まっていて、もう4回か5回目が終わったもので、BBC 2の謎めいた、所謂ノワール・ドラマ、"Shadow Line"。もの憂い、しかし張り詰めた雰囲気が漂う心理スリラー。昔のフランス映画のフィルム・ノワール(例えば、ジャン・ピエール・メルヴィル)とか、ハリウッド映画では"L A Confidential"を思い出させる。

私がこれからも毎週見ることにしたのは、ITV 1の"Scott & Bailey"。これは2人の(もうあまり若くはない)女性刑事の活躍を描くオーソドックスな警察ドラマ。"Vera"とか、"Shadow Lane"のような個性の強いスタイリスティックなドラマではなく、警察を舞台にした人情もの、ソープ・オペラ的雰囲気がある。ITVはこの2年くらいの間に長寿番組の刑事物をいくつも中止している。例えば、"A Touch of Frost", "Rebus", そして"Taggart"。その代わりの一部となるシリーズだろう。このドラマの特色は主役2人だけでなく、彼らの直接の上司である管理職も女性なのである(写真)。彼らは、働く女性が感じる様々のストレス(育児、妊娠、忙しい生活の中で夫や恋人との関係維持)などで苦しみながら働き続ける。移り変わるイギリス社会を反映していると言えるし、社会の動きの少し前を行っているのかもしれない。そう言えば、"Vera"は女性版の"Rebus"とも言える番組だった。両番組共にスコットランドを舞台とし、主役の経験豊かな刑事RebusとVeraは、「刑事の勘」で仕事をするタイプ。気短かで時々癇癪を起こすが優しいところもある。ワーカホリックで、私生活にうるおいが乏しくて孤独な人。サポート役の若い刑事はソフトで気配りが出来、真面目一方の世話女房役(但、Veraの部下の若い男性刑事は「世話亭主」。自分の家庭の事でもいろいろ気配りしたり悩んだりするところが良く出来ている)。

そして、"Vera"の後に日曜夜9時の大事なスロットに持ってきたドラマ"Scott & Bailey"は、"Vera"以上に女性中心のドラマである。ITVが、刑事物の番組制作において、かなりジェンダーを意識していると感じさせるチョイス。どうだろうか、日本だとこういう風に女性を意図的に活躍させるドラマは不自然だと批判が起きそうだ。しかし、そういう事を臆面もなくやるのがこの国。テレビの刑事ドラマのように非常に多くの人に見られるメディア作品において、意識的にジェンダーの垣根を取り払うことにより、子供や10代から20代の女性がモデルとする職業人のイメージが広がるのは良い事だと思う。何も刑事になって欲しいというのではなく、女性に職業の垣根は無いことを女の子達に自然に感じさせることが出来るかもしれない。また、これらのドラマのように、女性だからと言って、年齢とか容姿といった要素が男性以上に重視されるのではなく、人格、知的能力、決断力、体力や意思の強さなどで評価され、年齢や経験のある女性は管理職としてリーダーシップをふるう----そういうドラマが増えて欲しいものだ。イギリスではそういうドラマが当然になってきたが、日本ではどうか?テレビ番組で未だに若い女性が飾りみたいに扱われていないだろうか。日本のテレビのクイズ番組とか、バラエティーなどでの若い女性のアシスタントやアナウンサーのお人形みたいな扱い方は、イギリスの番組では見かけないように思うが・・・。イギリスの女性視聴者だったら、女性を馬鹿にしていると怒るだろう。

脱線したが、それはさておき、色々理屈をつけなくても気楽に見られ、単純に楽しい"Scott & Bailey"ではある。

(追記)あとで思い出したが、Caroline Quentin主演の"Blue Murder"も中年の女性が管理職の刑事として活躍するドラマだったが、突然打ち切りになった。現在50才のQuentinは、新聞記事で、中年以上の女性俳優が、男性俳優同様に、主役として活躍するドラマが少なすぎる、と不満を述べている。その後、彼女は、コメディー・ドラマ"The Life of Riley"の主役としてBBCに登場している。

2 件のコメント:

  1. 私は主にアメリカの刑事ドラマを見ているんですが、やっぱり女性の活躍が目立つようになってきていると思います。「Castle」や「Mentalist」を見てると、男性の主人公は作家やコンサルタントといったサポート役で、中堅の女刑事がバリバリ走り回って犯人を逮捕したりします。

    確かに日本のバラエティーやクリズショーでの女子アナや女性の芸能人の扱いというのは本当にひどいものがありますが、刑事物としては「科捜研の女」「アンフェア」などでちゃんと中堅以上の(中年まではいかないですけど)女性の活躍を描くなりの努力はしていると思います。まだまだ足りないとは思いますけどね。個人的には「Cold Case」の中堅敏腕刑事が日本版「絶対零度」になると新人のメモ取りという設定になってしまって憤慨した記憶はあります。

    刑事物大好きなので記事の中でお薦めされているものはぜひ見てみようと思います。もっと日本でもイギリスのドラマを積極的にやって欲しいですね。今だと「MI-5」くらいしかやってなくてさびしいです。

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  2. Bookwormさま、色々とコメントありがとうございます。

    "Cold Case"は私も日本ではよく見ていました。

    日本のドラマでも、2時間ドラマや、少し上の世代向きのドラマ(「科捜研の女」も多分そうでしょう)では女性をトップに持ってくるものも増えましたね。それ自体は良いことですが、逆に言うと、有名女優でも一定年齢を過ぎると、2時間ドラマなどでしか使ってもらえなくなり、連続ドラマの主役が出来なくなると言う事でしょう。「アンフェア」はストーリーは面白くて、良く出来たドラマとは思いますが、リアリティーに乏しい夢物語で、アニメの中の刑事を見ているみたいでした。

    イギリスのドラマは大変良く出来ていて、日本で放映されることもありますが、地味なものが多いので、残念ながら日本では有料の海外ドラマチャンネルなどで放映されることが多いようです。最近のイギリスの刑事物の多くは、単なるクライム・ドラマでなくなり、社会問題を扱った作品("Five Daughters", "Silence", その他のドラマもそれぞれの回で色々な問題を取り上げる)とか、事件よりも、刑事や登場人物の人間ドラマを中心にしたもの(今回の"Scott and Bailey"もそういう感じ)が多くなり、クライム・ドラマのジャンルはそうした内容を入れる器になりつつあるようです。

    >女子アナや女性の芸能人の扱いというのは本当にひどいものがありますが

    日本社会(特に男性)の、可愛くて実際の年齢より幼い女性を好む趣向の表れかと思いますが、海外から見ると、かなり"weird"で"creepy"。しかし、女性達自身も、そういう文化の中で幼い時から育っているので、その異常さに気づかないのかな、とも思えます。 Yoshi

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