2015/11/26

プラド美術館展(三菱一号館美術館)

プラド美術館展 (三菱一号館美術館) 2015年11月25日

11月25日、仕事を終えた後、三菱一号美術館に、プラド美術館展を見に行ってきた。絵のサイズとしては、ほとんどが小品だった。ヒエロニムス・ボスやヤン・ブリューゲル2世の「地上の楽園」、ピーテル・ブリューゲル2世の「バベルの塔の建設」など、フランドルの北方ルネサンス絵画が印象に残った。フランドルの画家達の絵の多くがかなり小さくて、ものすごく精密なのに驚く。貴族のお屋敷とか、豊かな教会などではなく、商人の家などに置かれたので、ああしたサイズになったようだ。よくあんな精密な絵が筆で描けるものだなあ、と感心した。針みたいな筆で描いたのかしら。ボスの有名な傑作で、今回の目玉の「愚者の石の切除」が来ていたが、想像していたよりずっと小さな絵だった。専門的には色々な解析が出来る絵と思うが、ただ見ただけでも面白い。

中世好きの私には、最初の部屋の中世末からルネサンス初期の展示作品に大変魅せられた。後のほうに進むにつれてやや関心が薄れてきた。でも、ギリシャ・ローマの古典に影響を受けたイタリア絵画と、北方ルネサンスの絵画がどのようにして影響し合い、結びついて行くか、わかりやすく展示してあった。

今回は、損傷しやすいためになかなか国外に出されない多くの板絵が見られる貴重な機会という点でも特筆すべき展覧会。来年の1月31日まで開催。

URL: http://mimt.jp/prado/

2015/11/23

『桜の園』(新国立劇場、2015.11.22)

『桜の園』 
新国立劇場公演
観劇日: 2015.11.22   13:00-15:40(休憩1回含む)
劇場: 新国立劇場 小劇場

演出: 鵜山仁
原作: アントン・チェーホフ
翻訳: 神西清
美術: 島次郎
衣装: 緒方規矩子
照明: 沢田祐二
音響: 泰大介

出演:
田中裕子 (ラネーフスカヤ、女主人)
榎本佑 (ロバーヒン)
木村了 (トロフィーモフ、学生)
宮本裕子 (シャルロッタ、家庭教師)
平岩紙 (ドゥニャーシャ、女中)
奥村佳恵 (ワーリャ、養女)
山崎薫(アーニャ、娘)
大谷亮介 (エピホードフ、事務員)
石田圭祐 (ガーエフ、ラネーフスカヤの兄)
金内貴久夫 (フィールス、老いた召使い)
吉村直(ピーシチク、近所の地主)
田代隆秀(浮浪者)
木場允視(ヤーシャ)

☆☆☆ / 5

チェーホフの時代を踏まえた、オーソドックスな上演。ベテラン演出家の手腕と経験豊かな俳優やスタッフを使い、安心して楽しめる古典の上演に仕上がっている。最近の私の様に、月に1度くらい劇を見る観客に取っては、失敗の無い劇場、演出家、演目、と言ったところで、ちょうど良い感じ。充分楽しめた。しかし、逆に言うと、驚きがなく、退屈とまでは言わないけど新鮮さはほとんど感じられない。

この前見た『マクベス』でも感じたが、田中裕子は、何だか自分なりの「型」を作っている。森光子なんかの時代がかった大芝居になるところまでは行っていなくて、丁度良い程度で、主役としては、はっきりした個性があって印象的。馬鹿な男に貢ぐ、世情に疎いダメ女の感じが良く出た。榎本は、出た途端に、「こりゃまた若々しいロバーヒン!」と、かなり違和感を感じたが、10分もすると、すっかり引き込まれた。あのひねくれた感じを出すのが実に上手い。上手く息を抜いて台詞の緩急をつけるのにすぐれた俳優だし、この役には特にぴったり。彼が若いことで、学生のトロフィーモフと並んで、二人の若者が新しい世界に向かって違った生き方を選ぶコントラストがくっきりした。娘2人は、いまひとつ印象が薄い。一方、宮本裕子は、折角個性を感じさせる俳優なのに、何だかあの小さな役には勿体ない感じがした。非常に重要な役であるトロフィーモフは、ロバーヒン同様、屈折した演技が必要かと思うが、個性に乏しく、一本調子の演説になりがちで、俳優の技量の不足を感じた。台詞の分かりやすさだけでは駄目だなあ。逆に存在感が傑出していたのは、女中の平岩紙。ちょっと台詞を言うだけで、凄く目立って、ラネーフスカヤを食いかねないほどで、笑ってしまった。

それまでとは全く色合いの違う最後の工夫は、蜷川風の悪のりに見えて、しらけた。桜の木の切り倒される音と老人の孤独死だけで充分感動的な幕切れだったのに、と残念。

この公演が小劇場だからかもしれないが、家具などがみすぼらしい。特に重要な家具として真ん中に置かれた本棚も、大きいだけで、まるでホームセンターの組み立て家具のようだ。新国立劇場、予算不足なのかなあ、と思わせる。全体に美術にもっと予算と工夫が欲しい。

と幾つかの不満も書いたが、私の鑑賞眼の不足故だったり、無いものねだりと言うべき点が多いだろう。全体としては大きな問題はなく、充分に楽しい時間を過ごせた。