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2014/11/21

「ヨーロッパ 台頭するポピュリズム」(NHK BS世界のドキュメンタリー)

標記のドキュメンタリーの再放送を録画して見た。フランスのRoche Productionが今年作った番組。

イタリア、フランス、オランダ、ハンガリーにおける右翼民族主義政党のめざましい台頭を1時間弱で俯瞰してくれる。ひとつひとつの国の状況については、色々と説明不足の点があると思うが、ヨーロッパ全体に共通する問題として民族主義を捉え、そしてオランダやハンガリーなど、日本ではほとんど報道されない国の様子を教えてくれる番組として、大変貴重で、勉強になった。 先日同じシリーズで見た「左折禁止 社会民主主義は退潮しているか」(ドイツTaglicht Media, 2014)とは別の国の別の放送局の制作だが、ふたつが相互補完的になり、大変興味深かった。

こうした事が起こる大きな背景としては、グローバル化と経済不振による生活レベルの低下や失業者の増大がある。そうしたことへの不満が、分かりやすく身近なスケーブゴートとして、移民とEUへの反発に向かっている。更に中東情勢の不安定さから、反イスラム、反アラブへ結びつく。しかし、一旦他民族他文化排除の誘惑に屈した人々は、容易に反ユダヤ、反ロマなどの伝統的な差別も 受け入れるようになる。日本で言う「反日」の論理だ。番組のナレーターが言っているように、反――と唱えることで結びつく逆説のアイデンティティーがそこにはある。「イスラムではない私達の文化と歴史」というわけだ。だからといって、今のヨーロッパ人、とりわけワーキングクラスの人々が特に熱心なキリスト教徒なわけでも、自国・自民族の歴史や文化に深い知識や関心があるわけでも無い。むしろ教会は(少なくともイギリスでは)ガラガラであり、学校では実利的な科目が幅をきかせて、歴史や文学、芸術は二の次にされている国が多いだろう。それまで多数派で自分のアイデンティティーを深く考えることがなかった人々が、EUという国を超えた組織の成立やグローバル化された経済活動で自信を無くしたり、職を脅かされたりして、古い近代的民族国家の枠組に守って貰いたいと思っているようだ。

一方で、伝統的なリベラルで高学歴のミドルクラスの人々も、教育が行き届いてその数が増え、数少ないエリートでは無くなったことや、アジアを含めたグローバル競争の中で、仕事の取り合いになり、生活も苦しく、「ホワイトカラー・ワーキングクラス」という状況に陥っている。従来は、リベラル・ミドル・クラスは、東西の国々で、左翼政党の理論的支柱であり、根強い支持基盤であった。例えば、イギリス労働党の成立にはフェビアン協会が大きな役割を果たしている。しかし今、ホワイトカラー労働者の多くは組合組織の乏しいサービス業に属してミドルクラスから転落しており、ワーキングクラスと共に左翼運動や社会民主主義を支えるという物質的、精神的ゆとりがなくなっている。彼らは急速に左翼を離れ、経済第一主義で大企業の影響下にある政党(イギリスの保守党のような。日本では自民党)や民族主義政党を支持するようになった。

危険なのは、こういう民族主義政党の台頭に影響されて、政権を取っている保守系政党までが政策を変えたり、保守と民族主義の政党が連立したりすること。

興味深く、また恐ろしくもあるのは、民族主義政党は世界で同時に台頭するということ。今のEU諸国や日本もそうだが、第2次大戦前もまさにそうだった。各国で剥き出しの民族主義が敵を求めて徘徊し始めると、戦争の危険が増大する。怖い。

2014/04/03

"The Killing" (キリング)シーズン1


やっと見終わった、The Killing 1 ! いやはや長い。ひとつの殺人事件を扱うだけの連続ドラマなのに、全20話だからね。随分前、イギリス留学中に、10話くらいまで見ていて、iPlayerで追いかけたんだけど、時間切れで、半分程度しか見られなかった。その後、日本でも有料海外ドラマ・チャンネルで放送され、日本語字幕付きDVDも発売されていて、日本でもファンがいるようだ。デンマークのクライム・ドラマで、スウェーデンの『ワランダー』と共に、世界的な北欧クライム・ドラマ・ブームの皮切りとなった傑作だ。すでに、第3シリーズまで作られている。第2、第3シリーズはそれぞれ10話ずつ。また、アメリカで第1シリーズの短いリメーク版も作られた。去年の夏ロンドンに行った折、オックスフォード・ストリートのHMVでシリーズ1のDVD5枚組ボックスが安い値段で売られていたので買ってきて、昨年末から少しずつ見てきた。デンマーク語はもちろん分からないので、英語字幕で見るから、時々字幕が追い切れない台詞もあり、20話もあると、最初の方で何があったかなんて、終わりになる頃には、私の乏しい記憶力では忘れている。更に、途中で退屈する時もあったけど、それでもやめられず、最後まで見ることになった。

上記の様に、半分くらいはBBCで放送時に既に見ていたのだが、せっかく買ったDVDなので、最初から見なおした。大分忘れていると言う事もあるが、2度目に見た部分でも、話の大筋は分かっていても登場人物の変化を追っていくだけで、結構面白かった。更に今回は、10話くらい見たところで、犯人を知ってしまったんだよね(^_^)。これは内容から推量したのではなくて、偶々見ていたガーディアン紙のテレビ・リビューのビデオ・クリップで、第1シリーズの犯人をリビューアーが言っちゃったんだ!昔のドラマだから、もうそんな事気にする人もいないということなんだろうけど・・・。ガクッときたけど、それでも見続ける価値は充分あった。このドラマの面白さは、基本的に、キャラクターの心理描写だから。クライム・フィクションで言うと、イアン・ランキンとかP. D. ジェイムズを読むような感じ。犯人にたどり着く紆余曲折から、ランキンの読後感に近いかなあ。

物語全体の大枠は、ナナ・ビルク・ラールセンというコペンハーゲンの高校生が行く方不明になり、やがて死体で発見される。その後の捜査期間の20日間を、犯人逮捕まで、1日1エピソードとして描いている。

ストーリーは幾つかの大きな筋を織り合わせて出来ているが、特に、刑事サラ・ルンドとイエン・マイヤーの犯罪捜査と、若手政治家トロールス・ハートマンと市長ポール・ブレマーを中心としたコペンハーゲン政界内の権力闘争が大きな2本柱と言えるだろう。更に、殺されたナナの家族、父のタイス・ビルク・ラールセン、母のペニレ、そして彼らの周辺の人々、また、ナナの教師などの学校関係者などが、それぞれに様々な葛藤を抱えていて、心理的にも複雑なドラマを繰り広げる。

サラ・ルンドの、食らいついたら離さないしつこい捜査、それに振り回される部下のマイヤーの哀れさ、更に二転三転する捜査対象に翻弄されるビルク・ラールセン一家やハートマンと彼の2人の側近、リエとモーテン、のキャラクター描写も魅力的。被害者家族、タイスとペニレの夫婦は特に悲痛だ。警察の捜査に一喜一憂し、怒ったり絶望したり、警察を信じたり不信に陥ったりと、良く描けている。タイス夫婦の幼い息子達も哀れ。

政界の権力闘争は、それ自体がドラマとして独立できそうなくらい面白い。特に引き込まれたのは、市長のポール・ブレマーの底知れぬ老獪さ。野心溢れ、エネルギッシュなハートマンを様々な方向から執拗に揺さぶる。ある時は相手を懐柔したかと思えば、ある時は徹底的に相手の弱みを針でつつくように責め立てる。ハートマンはこの化け物のような政治家に翻弄されるが、一方で彼も貪欲な野心を持ち、目的の為には、どんな人物も切り捨てる冷酷さを備えていて、ブレマーの好敵手と言える。私はこういう腹の奥底の知れない政治家とか、野心たっぷりの人などを描くドラマや小説にかなり興味がある。特にブレマーのような人には、お近づきにはなりたくないが、ドラマで見るのはとても面白い。

イギリスのクライム・ドラマもそうだが、日本の娯楽ドラマでうんざりさせられるお涙頂戴のセンチメンタリズムがないところも良い。最後、精神的にもずたずたになったサラ・ルンドが警察署を無言で出ていくところがとても印象的。

私は子供の時以来、春、特に3月4月が大嫌いで、毎年憂鬱な気分で過ごすんだが、このドラマを見ている間は気が紛れ、ありがたかった。

(関連記事)2011年5月の記事で、幾つかその頃見ていたドラマについて書いていて、最後にThe Killingにも触れていた。

2013/08/02

『私立探偵ヴァルグ』('Varg Veum') (WOWOW)



先日たまたま新聞のテレビ欄を見ていて気づき、これは何だろう、と思って、2つのエピソードを録画して見た。近年イギリスで大変人気が出て、その後日本やアメリカでもファンが増えているように見える北欧のクライム・ドラマのひとつ。北欧発クライム・ドラマのブームはスウェーデンのWallanderシリーズで始まって、BBCでケネス・ブラナー主演のイギリス版が出来たが、直接北欧のドラマを字幕付きで見て、主演俳優が人気を集めるようになったのはソフィー・グローベール主演のデンマークのドラマ'The Killing'からだろう。その後、日本でも、'The Killing'に続いて、スウェーデン・デンマーク共同制作の'The Bridge'などが、海外ドラマ専門の有料チャンネルで放送されたらしい。'The Killing'の第一シリーズは間もなく日本語字幕版DVDが発売されるようだ。

さて、この北欧クライム・ドラマから日本への新しい輸入品が、この『私立探偵ヴァルグ』('Varg Veum')。私は今回第一シリーズと第二シリーズの4つのエピソードから2つを見たが、大変楽しめた。もともと劇場用に作られた映画のようで、それだけ念入りに出来ている。他の北欧ドラマと同様、このドラマもセンチメンタルな甘ったるいところがないのが魅力。現代の探偵ドラマであるから、誘拐や暴力、レイプなどが描かれるが、アメリカのドラマにしばしばみられるような暴力や性を殊更に売りものにすることはなく、主人公ヴァルグの事件の執拗な追及、彼の一匹狼としての、社会的な常識とか権威にたじろがないエネルギーが魅力であり、扱う題材は現代的でも、シャーロック・ホームズのような伝統的私立探偵ドラマと言えるだろう。あるいは、主人公の雰囲気からすれば、ハメット、スピレーン、チャンドラー等々のアメリカの古典的なハードボイルド小説や、暗く冷たい背景はフランス映画のフィルム・ノワールとも共通する雰囲気があり、懐かしく感じた。'The Killing'、'The Bridge'、あるいはBBCで放送されたフランスのドラマ『スパイラル』(原題 'Engrenages')などは、1つの事件を延々と描き、込み入ったプロットや複雑な人間模様を作り上げるところが魅力だが、このシリーズは元は劇場用だから2時間弱で完結するので、見るには便利。犯罪小説とかドラマが好きな方には勧めたい。WOWOWで8月13日に2つのエピソードが再放送される。英語字幕付きDVDも発売されていて、ちょっと誘惑されるな。写真は主人公の探偵ヴァルグ。非常に大柄な、如何にもゲルマン人という体格の男性。ワイルドな雰囲気で、(このタイプのたくましい男性の好きな)女性(あるいは同性)にはたまらない魅力を持つかも。私の見た2つのエピソードだけでは良く分からないが、複雑な過去を持った人物であることがほのめかされており、ハードな外面とは対称的に繊細な内面を伺わせるところが魅力でもある。嫌々ながら彼と協力して事件を捜査するハムレ警部との、友人、師弟、競争相手などの意識の入り交じった、ちょっとねじれた関係も楽しめる。ポワロとジャップ刑事みたいに、私立探偵と刑事のつかず離れずのコンビも、ホームズとワトソンのような探偵とその助手のコンビとは又違った味わいがある。