2013/08/02

『私立探偵ヴァルグ』('Varg Veum') (WOWOW)



先日たまたま新聞のテレビ欄を見ていて気づき、これは何だろう、と思って、2つのエピソードを録画して見た。近年イギリスで大変人気が出て、その後日本やアメリカでもファンが増えているように見える北欧のクライム・ドラマのひとつ。北欧発クライム・ドラマのブームはスウェーデンのWallanderシリーズで始まって、BBCでケネス・ブラナー主演のイギリス版が出来たが、直接北欧のドラマを字幕付きで見て、主演俳優が人気を集めるようになったのはソフィー・グローベール主演のデンマークのドラマ'The Killing'からだろう。その後、日本でも、'The Killing'に続いて、スウェーデン・デンマーク共同制作の'The Bridge'などが、海外ドラマ専門の有料チャンネルで放送されたらしい。'The Killing'の第一シリーズは間もなく日本語字幕版DVDが発売されるようだ。

さて、この北欧クライム・ドラマから日本への新しい輸入品が、この『私立探偵ヴァルグ』('Varg Veum')。私は今回第一シリーズと第二シリーズの4つのエピソードから2つを見たが、大変楽しめた。もともと劇場用に作られた映画のようで、それだけ念入りに出来ている。他の北欧ドラマと同様、このドラマもセンチメンタルな甘ったるいところがないのが魅力。現代の探偵ドラマであるから、誘拐や暴力、レイプなどが描かれるが、アメリカのドラマにしばしばみられるような暴力や性を殊更に売りものにすることはなく、主人公ヴァルグの事件の執拗な追及、彼の一匹狼としての、社会的な常識とか権威にたじろがないエネルギーが魅力であり、扱う題材は現代的でも、シャーロック・ホームズのような伝統的私立探偵ドラマと言えるだろう。あるいは、主人公の雰囲気からすれば、ハメット、スピレーン、チャンドラー等々のアメリカの古典的なハードボイルド小説や、暗く冷たい背景はフランス映画のフィルム・ノワールとも共通する雰囲気があり、懐かしく感じた。'The Killing'、'The Bridge'、あるいはBBCで放送されたフランスのドラマ『スパイラル』(原題 'Engrenages')などは、1つの事件を延々と描き、込み入ったプロットや複雑な人間模様を作り上げるところが魅力だが、このシリーズは元は劇場用だから2時間弱で完結するので、見るには便利。犯罪小説とかドラマが好きな方には勧めたい。WOWOWで8月13日に2つのエピソードが再放送される英語字幕付きDVDも発売されていて、ちょっと誘惑されるな。写真は主人公の探偵ヴァルグ。非常に大柄な、如何にもゲルマン人という体格の男性。ワイルドな雰囲気で、(このタイプのたくましい男性の好きな)女性(あるいは同性)にはたまらない魅力を持つかも。私の見た2つのエピソードだけでは良く分からないが、複雑な過去を持った人物であることがほのめかされており、ハードな外面とは対称的に繊細な内面を伺わせるところが魅力でもある。嫌々ながら彼と協力して事件を捜査するハムレ警部との、友人、師弟、競争相手などの意識の入り交じった、ちょっとねじれた関係も楽しめる。ポワロとジャップ刑事みたいに、私立探偵と刑事のつかず離れずのコンビも、ホームズとワトソンのような探偵とその助手のコンビとは又違った味わいがある。

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