2013/08/30

"Edward II" (National Theatre, 2013.8.29)


久々に見たマーロー作品。楽しめた。
"Edward II"

National Theatre公演
観劇日:2013.08.29  19:30-22:15 (with a 25 min. interval)
劇場: Olivier, National Theatre

演出:Joe Hill-Gibbins
脚本:Christopher Marlowe
セット:Lizzie Clachan
照明:James Farncombe
ヴィデオ・デザイン:Chris Konkek
音響:Paul Ardetti
音楽:Gary Yershon
ムーブメント:Imogen Knight
衣装:Alex Lowde

出演:
John Heffernan (King Edward II)
Vanessa Kirby (Queen Isabella)
Kirsty Bushell (Kent, King's sister)
Bettrys Jones (Prince Edward, later Edward III)
Kyle Soller (Piers Gaveston / Lightborn, the executioner)
Nathaniel Martello-While (Hugh Spencer, the king's favourite)
Ben Addis (Baldock, a scholar and clerk)
Kobna Holdbrook-Smith (Mortimer Jr.)
Paul Bentall (Mortimer Sr., the uncle of Mrtimer Jr.)
Alex Beckett (The Earl of Lancaster)
Matthew Pidgeon (Guy, the Earl of Warwick)
Penny Layden (The Earl of Penbroke)
Stephen Wilson (The Bishop of Coventry)
David Sibley (The Archbishop of Canterbury)

☆☆☆☆/ 5

Christopher Marlowe作の古典戯曲の上演。とは言ってもMarlowe作品が上演されることはイギリスでもそう多くは無く、私ははじめて舞台で見た。その意味で大変貴重な経験だったし、そもそも私はMarloweの戯曲が大好きで、今回見られて大変幸運だった。古典ではあるが一般の演劇愛好者にはあまり染みのない戯曲と思うので、私自身の復習も兼ねて、長くなるが以下に粗筋を整理しておく。

(粗筋) この劇は、特にこの公演では、Edward IIの戴冠から死、そしてプリンス、つまりEdward IIIの戴冠までを、Edwardと二人の"favourites"(寵臣)、 GavestonとSpencer (Junior)との関係、そしてそれに反発する大貴族や妃Isabella of Franceとの関係を中心に描く。

この公演では、まずEdwardの華々しい、きらびやかな戴冠の場面で始まる。しかし、これはMarloweの脚本にはなく、劇の最後にあるEdward IIIの戴冠と対称を成し、政権が一周したことをくっきりと示すためだろう。そして脚本の本編に入ると、追放されていた寵臣Gavestonが帰国を許されて、華々しく登場。そして彼とEdwardの関係が念入りに描かれる。王は、卑しい生まれであるが溺愛するGavestonに振り回され、彼に様々の高貴な身分と領地を与えるが、国政はおろそかにして国家の安寧を危うくしている。怒った大貴族たち、特にMortimerやLancasterはGavestonを再度追放するように王に迫る。カンタベリー大司教の介入により、王はやむを得ずGavestonを再度追放することに同意する。

しかし、妃Isabellaは王の愛情を取り戻すためにGavestonを呼び戻すことを許可するよう貴族達に懇願し、貴族達もこれに耳を傾け、Gavestonは又々呼び戻される。しかし、Gavestonは戻るやいなや貴族達と対立。これまで王を支持していた彼の妹のKentもGavestonへの王の肩入れに反発し、貴族達に加わる(原作では、Kentは王の弟Edmund, Earl of Kentである)。GavestonはHugh SpencerとBaldockを王の取り巻きに加える。

内乱となり、貴族達はGavestonを逮捕。王は、Gavestonの処刑前に一目会いたいという願いをBaldockに託し、貴族達もそれに同意するが、Warwickの企みにより、Gavestonはすぐに処刑される。妃もついに王を見捨て、息子のプリンスを伴ってフランスに戻る。内乱は続き、王の軍はついに貴族達の連合軍を破り、LancasterとWarwickを処刑。Mortimer Jr.、Kent、そして王妃は、Prince Edwardを押し立ててフランスで軍を起こし、イングランドを攻撃。王は、Hugh SpencerをGavestonの後釜に据える。王の軍は反乱軍に敗戦。王は逮捕され投獄、Spencerなどの取り巻きは処刑される。

Isabellaは今や彼女の愛人となったMortimer Jr.とイングランドを支配。Pembrokeとカンタベリー大司教は王に王位を息子に譲るよう説得する。一方、Kentは再度王を支持し、彼の命を助けようとするが失敗。彼女はMortimerの前に引き出され、プリンスの反対にも関わらず、処刑を宣告される。王は牢獄で拷問され、ついに退位。プリンスはEdward IIIとして戴冠。その一方、Edward IIは刺客のLightborn (=the devil, Lucifer) によって、殺害される(尻から長い鉄の棒を突きさした)。新国王は父親の殺害を知り、Mortimerの処刑と母Isabellaの投獄を命じる。

私が見たのはプリビューの2日目。従って、多少未完成なところがあった気がする。英語が良く聞き取れない私にも、台詞の間違いらしきところも気がついたし、インターバルでは大規模な舞台セットを組み替えるために、約25分を要した。

公演は現代的な味付け。最初の戴冠式と、途中貴族や家来が付けていた甲冑だけは疑似中世風だったが、あとは現代服。現代的、不協和音の混じる音楽・音響。台詞の美しさを強調するところもない。内乱のシーンでも、戦うような仕草をするだけで、剣をふるっての殺陣もなく、かなり迫力に欠けた。本当に現代的にするんだったら、銃で撃ち合ったりさせてはどうかと思う。先日見たHytner演出の"Othello"と比べると、現在の戦争とか内乱を連想させるような公演では無い。このあたり、私には、何故、今風にしなければいけないのか、良く分からないまま。

この公演の最も目だった特徴は、ステージの左右上方に2つの大きなスクリーンを作り、そこにステージでは見えない、ないしはよく見えない、舞台裏のシーンを、ウェッブカムでの中継映像として流すという試みだ。例えば、最初の方で、ステージ上に王やGavestonがいて、舞台裏の小部屋では貴族達がひそひそとGaveston追放の相談をしている時、その舞台裏の映像を、カメラを持ち仮面を被った黒子のような出で立ちの家来が手持ちカメラで撮影して、舞台上のモニターに映し出す。表舞台とは別に背後で色々な策謀がなされているという、宮廷政治の複雑さを示し、臨場感を増そうという工夫だろうか。映像と舞台を組み合わせ、シェイクスピアなど古典も演出するのは、例えば、Robert LepageやRupert Gooldの作品で、しばしばやられてきたし、これらの監督の作品では大変上手く行った場合もある。しかし、今回は画面が揺れる手持ちカメラで見づらいし(人によっては船酔いに似た気分になるだろう)、画面を見たり舞台を見たりと注意が散漫になる。特に上記の貴族達の相談の場面では、2つのスクリーンに別の映像が映り、しかも舞台上にも注目しなければならず、どのシーンにも中途半端にしか観客は注意できなくて、全く機能していなかった。公演の前半が後半に比べて良くないと感じた理由のひとつは、このウェッブカムの映像のためだろう。

前半のセットは、きらびやかな宮廷では無く、楽屋裏みたいな、ベニヤ張りのみすぼらしい背景。楽屋落ちの劇ですよ、と示す意図だろうかとも思ったり、でも私には意図が飲み込めないままだった。前半の終わりの内乱のシーンでは、このセットを倒して国家(王室)が崩壊するのを示す。後半では、この倒れたパネルなどを組み替えて、オリヴィエのステージの上に約3メートルの高さがある土台を組み上げ、その上に椅子や小道具を置いて、IsabellaとMortimerが陣取る。貴族達の会話や、王の牢獄場面などは下のステージで行われる。この、上方のみすぼらしい小宮廷は、仮の政権であることを示すため、そしてMortimerが偽りの為政者であることを示すために建てられたのであろう。彼がこの上で大声を上げると、如何にもmock-kingという感じだった。それは良いのだが、この山に載せられた為に、IsabellaとMortimerの位置が結果的にステージのかなり後方になり観客から遠く感じられ、見づらくなった。

Edward IIを演じたJohn Heffernan、大貴族達に押しまくられて、味方は少なく如何にも自信なさそうな表情を見せる一方、それと裏腹に、Gavestonへの執着だけはなかなか譲らない粘着質の頑固さも、印象に残る。そのGavestonを演じたKyle Sollerは、街のチンピラのような浅薄さを強調。もの凄い身の軽さでステージや観客の間をバッタか何かのように飛び回り度肝を抜く。最初に登場したときは、観客席上段から突如現れ、通路の手すりの上を台詞を言いながら歩きつつステージへと向かった。ただし、後半のSpencerもそうだが、王とそのfavouritesの退廃的なホモセクシュアリティが、何だか、街の娼夫とそのパトロンの安っぽい関係のようにも見えてしまい、耽美的な面が出ないのが残念。私の好みとしては、美しくてほれぼれするような優美なカップルであって欲しかったが・・・。しかし、そもそもプロダクションの意図がそうでは無いからなあ。吸い付き腰も合わせていつまでも離れないキスは、日本の舞台では男女の俳優でも見られないような迫力で圧巻。こういう大胆な身体性は日本人の観客には新鮮だ。この役のSollerはGavestonが殺された後、Edwardの殺害者として登場するのは皮肉。しかも殺し方も、尻から鉄の棒を突きさすという強烈さ!面白い工夫としては、KentとPenbrokeを女性にしたこと。先日の"Othello"で兵士に女性を混ぜたり、Emiliaを兵士にしたのと同様、配役のジェンダーで常識を覆してみるのは面白い試みだと思った。特に、黒いスーツと高いハイヒールを履き、細いが筋肉質のKent (Kirsty Bushell)が激しく他の貴族と言い争うシーンは、男同士よりも迫力があった。また、彼女が処刑される前に地面に這いつくばり、下着姿でMortimerと言い合うところも、女性の身体に込められた意思の強さが力強く表現されていた。しばしば王と他の貴族の仲介役として両者をとりなすPenbroke (Penny Layden)を女優にして、柔らかい印象にしたのも、上手く役柄とはまっていたと思う。私から見ると、配役の中で際立つ存在感を放っていたのは、Isabellaを演じたVanessa Kirby。私は彼女をナショナルの"Women Beware Women"で見ていた。1988年生まれで、まだ若いが多くの賞を取ったり、ノミネートされたりしている才能ある俳優で、凄いステージ・プレゼンスがあるな、と今回再認識した。Isabellaは、王に見捨てられ、不幸な女性だが、やがて愛人を使って王を死に追いやり実権を握る。哀れで弱々しくも、逞しくも、狡くもあり、どういう面を強調するか、俳優の腕が振るえる面白い役だと思うが、原作を呼んだ印象よりも、今回のIsabellaは遙かに強力な、勇ましい、意思の強い女に見えた。KentとIsabellaがこの劇の代表的戦士、と感じるふたりの名演。

公演全体の意図がイマイチ良く分からなかったが、俳優の演技には満足したし、久々にMarlowe作品をステージで見ることが出来、楽しい時間を過ごせたので、主観的な評価は☆4つ。シェイクスピアを見る機会が圧倒的に多いから、彼の様な善悪の判断とか予定調和の無いMarloweの世界が実に新鮮で面白い。随分長くなったがまだ書き足りないこともある。Marlowe自身の事や、書かれた時代、そしてEdwardの時代のことなど、プログラムを読んだり、少し調べたりし、多分この戯曲についてもう1回ブログに書きたいと思っている。

日本では今年10月、新国立劇場でこの劇をやるそうだ。森新太郎演出、河合祥一郎訳、榎本佑主演。私も見るつもりであり、楽しみだ。ナショナルの公演ではどうだった、とか野暮なことを言わずに、素直に楽しみたい。

2 件のコメント:

  1. ライオネル2013年8月31日 19:30

    Yoshi様
    私もこれをみるので、予習しようと、
    日本語に翻訳したものを探しましたが、出版されていませんでした。
    それで、映画を見つけました(最近、繰り返し見ています)
    映画のセリフは、原作をそのまま使っているそうなので、参考にできそうです。
    タイトルロールのJohn Heffernanってあんまり好きじゃないんですけど・・・・・NTによく出てますよね。
    サー・イアンのキング・リアに出演してました。(なにしろ5回もみてますから ハハ)
    でも、マーローの作品って「ドクター・フォースタフ」以外は、ほとんど観る機会が無いので、観ておこうと・・・・
    王妃はよさそうですね・・・・・楽しみです。

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    1. ライオネルさま、いつもコメントありがとうございます。

      おっしゃるように公演されるのは珍しい戯曲ですので、一見の価値があると思います。演出方針は好き嫌いが分かれそうですが。翻訳は、千葉孝夫訳『パリの虐殺・エドワード二世』(北星堂、1980)があるようですが、小出版社ですし、公立図書館には滅多に無いでしょう。大学図書館では、全国で32図書館で所蔵されています。是非と思われれば、近隣の公立図書館に取り寄せが出来るか相談してみられると良いかも知れませんが、間もなく出かけられるのですよね。ちょっと遅すぎますかねえ。なお、東大の河合先生が今秋の新国立劇場の公演のために翻訳されましたので、間もなく新訳がでると思います。

      John Heffernanはカーテンコールで出て来たとき、如何にもやさしそうな感じの人でした。この自信の無いキングにぴったりの配役と思いますよ。ただ、もっと優美な王だったらな、と、これは演出方針が残念です。Vanessa Kirby、今まで注目したこと無かったですが、力強いお妃を上手く演じていました。

      マーロー、面白いです!楽しんで下さい。

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