6月29日金曜夜は市川猿之助、市川中車襲名披露公演「ヤマトタケル」で新橋演舞場へ出かけた。高い! とても贅沢な切符、しかも千秋楽。切り詰めて生活せざるを得ない今の私にはとても買えない切符だが、本当は妻が行くはずだった。ところが直前になって彼女に仕事が入って行けないことになり、歌舞伎に興味のない私が行く羽目に。もったいないこと極まりない。妻は悔しがることしきり。
私は歌舞伎は数えるほどしか見たことが無く、スーパー歌舞伎は始めてだったけど、絢爛豪華さに土肝を抜かれた。紅白歌合戦の小林幸子の出番をずっと見ているような、と言ったら叱られるだろうか。でもはじめて見た私にはそんな風に見えた。特に最後の宙乗りのところなんかそう。それから、蝦夷征伐に行く途中で火事にあって、それをタケルが静めるところ。赤い布や旗の使い方、そしてアクロバティックな宙返りの連続が凄い。そうした演出にひけを取らない新猿之助の動きのキレの良さ。スポーツ選手ならいざ知らず、役者としては超人的な体力だと感心。海で船がしけに襲われて難破しそうになるところも、日頃、イギリスの舞台や日本での翻訳劇などしか見ていない私には、歌舞伎の布の使い方が実に印象的だった。また、九州での争いの場面のカラフルさもまさにカーニヴァル的で、祝祭的な雰囲気が抜群に乗りが良い。
一方でアクションが止まり、台詞中心の場面になると、安手のセンチメンタリズム満開で、茶の間でリモコンを持っているなら早送りしたいが、なんて思いつつ見ていた。センチメンタリズムは歌舞伎だってそうだし、私の好みはともかくとして、そういうものとして受け入れるしかない。しかし、脚本は梅原猛だそうだが、あの女性の描き方。つまんないねえ。あまりにも古色蒼然としている。古代の女性の描き方だったら、もっと想像力を働かせて、破天荒な格好いいヒロインを想像出来ただろうに。結局、前の猿之助、つまり今の猿翁をひたすら目立たせる為の劇でなくちゃならないんだろう。
終わった時には、私は例によって体調が悪いのを我慢しつつ見ていたので、やれやれ早く帰ろう、と思ったら、それから延々とカーテンコール。そりゃそうだ、千秋楽だから。でも猿翁、猿之助、中車一門のファンでもない私にはかなりの違和感を感じた。それでもまわりの人が皆立ったので、やむを得ずスタンディング・オベーション(苦笑)。緞帳が一旦下りた後またあがると、猿翁が普通の服を着て出て来た。何だか観客を上から目線で睨みつけて、どうだ凄いだろ、と言わんばかり。それまでとても感心して、良い気持ちで見ていたのに、一挙に興ざめの気分になった。ファンには嬉しい猿翁の登場なんだろうけど、私は、こういうお目出度い時には行っちゃいけない客だ。でもありがたいことに妻に高価なチケットを譲って貰ってスーパー歌舞伎を見させてもらい、良い経験になった。
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