2014/05/01

“Coriolanus” (National Theatre Live, 2014.4.28)

“Coriolanus” (National Theatre Live, a Donmar Warehouse production)

Donmar Warehouse 公演
観劇日:2014.4.28 18:00-21:00
劇場:東邦シネマズ日本橋

演出:Josie Rouke
脚本:William Shakespeare
デザイナー:Lucy Osborne
照明:Mark Henderson
音響デザイン:Emma Laxton
作曲:Michael Bruce

出演:
Tom Hiddleston (Coriolanus)
Mark Gatiss (Menenius, a patrician)
Deborah Findlay (Volumnia, the mother of Coriolanus)
Hadley Fraser (Aufidius)
Birgitte Hjort Sørensen  (Virgilia, the wife of Coriolanus)
Eliot Levey (Brutus, a tribune)

☆☆☆☆ / 5

私は演劇の映画館でのlive viewingには、記憶する限り、以前に一度しか行ったことがなくて、テレビでの劇場中継での一般的な退屈さを考えるとあまり気が進まなかったが、今回は面白く、大いに楽しめた。やはりもとのプロダクションの良さのため、映像で見ても面白いのだろう。

この劇はオリヴィエみたいな広い空間で、沢山の端役を使って群像劇にすると迫力がありそうだ。今回のようにDonmarの小さな舞台でローマの広場や戦場を再現するのだから、そもそもかなりの制約がある。しかし、演出家のRoukeはその制約を逆手にとって、ひとりひとりの役者の演技に観客の注意を集中させ、濃密な心理的劇に仕上げたように思う。また、クローズアップの出来るlive viewingという映像での観賞がそれを助けた。壁の落書きとか、赤い投票用紙といった小道具で、人数の少なさをカバーするという工夫も上手く行っていたと思う。

何と言っても光ったのは、HiddlestonとFindlayの名演。しかし、Mark Gatissを始め、周囲を固める役者達も申し分ない。私の英語の理解力はたかが知れてはいるが、どの俳優についても、台詞の言い間違えやタイミングのずれを一度も感じることが無かった。HiddlestonのCoriolanusは、戦士としての剛胆さと内面の弱さを良く表現していた。その弱さを通じて固く結ばれた彼とVoluminaの関係が、最後のシーンで見事に描かれた。母が国のために息子を売りわたすことのやりきれなさが、うつむくFindlayによって雄弁に表現された。

平民や護民官の狡さ、軽薄さが上手く演じられるのを見ながら思ったのは、シェイクスピア作品では所謂「市民」というタイプの人達は、集団として集まると大抵は、ナイーブか狡いかその両方、要するに馬鹿なんだな、ということ。ロンドンの一般市民である大方の当時の観客はどう感じていたのだろうか。チューダー朝イングランドにおける民衆とか、市民とか、議会の概念については、私は勉強していないので分からないが、関心を惹かれた。

元来は男性の役に幾人か女優が割り当てられていた。劇全体の男性的なトーンを減じることで、プラス・マイナスの両方ありそうだ。女優を入れて妙にエロティックにしたところがあったが、あれは意味がある試みとは思えない。男同志の猛々しいぶつかり合いの雰囲気は薄められるが、女優が混じっていた方が、現代の民主主義国家の政治にも通じる物語として受け入れられる。Aufidiusはさしずめ、高市早苗さんといった感じ(^_^)。

live viewingのおかげで、実際に劇場にいるよりも役者の表情が良く分かり、迫力はあった。しかし、少なくとも今回のヴァージョンは、あまりに映画的にしすぎて、演劇ファンとしては不満だ。面白く、迫力あるものにしようとするあまり、「映画」になりすぎた。クローズアップが多すぎて、舞台全体の様子が分かりにくい。もっとカメラを引き、カメラの数も少なくて良い。主として正面一カ所から撮影し、それを他の幾つかのカメラで補強する、というくらいで、俳優の演技を主として全身で見せて欲しい。また、音楽も、舞台で使った音楽をそのまま使っているとは思うが、うるさすぎる。耳がやや遠い私から見ても、台詞のボリュームも上げすぎだ。live viewingを映画の一種と捉えるならそれでも良いだろうが、私としては、出来るだけ舞台の前で見る劇場体験に近くして欲しかった。

ナショナル・シアターライブでは、今年これからサイモン・ラッセル=ビールの『リア王』、エイドリアン・レスターとローリー・キニアーの『オセロー』という凄いプロダクションが並んでいます!

イギリス留学中、ナショナル・シアターの3つの劇場を除けば、最も頻繁に出かけたのはドンマーとアルメイダ。いた間はほとんどの演目を見た場所。なつかしい思いで一杯になった。

4 件のコメント:

  1. おはようございます。僕は演劇については何もかけませんので、ライヴ・ヴューイングについて。先日読んだある記事で、今後はオペラ、バレエ、そして舞台だけでなく、美術館や博物館で催されている特別展も映画館で上映する計画があるそうです。

     ロンドンへ来られない人のためにという理由は判ります。でも、そのような(絵画等の芸術作品を紹介する)役目はテレヴィが担っていたのではないか。金を出さなければならないというのは、違和感を感じます。

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    1. 守屋さん、コメントありがとうございます。我がブログにはもう長らく何の反応もないので書く気力を失いがちでしたが、コメントをいただけて励まされました。

      さて、ライブ・ビューイングは、上に書きましたように、問題もありますが、少なくとも演劇とかオペラやバレーなどについては、多分DVDにもテレビでの劇場中継もされない貴重な作品がこうして安価で多くの人の目に触れることは、素晴らしいと思います。ロンドンに住んでいたって、何十ポンドも、あるいは100ポンド以上もする作品を見られる方は一部に限られているでしょうから。更に、劇場に行った方でも、もう一度見たいとか、劇場では遠くの安い席だったから、もっと俳優の息づかいを聞きたいとか、ライブ・ビューイングならでわの価値はあるかと思います。ナショナルはこれからも日本でのNT Liveを続けるようなので、今後も楽しみにしています。8月に私が見てないサイモン・ラッセル・ビール主演の『リア』があるらしいのですが、その期間、イギリスに行く予定なので行き近いになり残念です!でもその為にイギリスに行かないというのも本末転倒なので(^_^)。

      日本でも今年はパリオペラ座のライブビューイングもやっていますよ:
      http://www.opera-yokoso.com

      但、博物や絵画展などのライブ・ビューイングについては又別の問題があるかもしれませんね。映画館で展覧会を見る意味があるのかどうか、見た経験がないので分かりません。現物を見る以外ではウェッブで充分に楽しめそうですが・・・・。

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  2. ライオネル2014年5月6日 10:11

    Yoshさま  見れなかった舞台を現地に行かなくても観れるので、私は重宝しています。
    見れなかった「フランケンシュタイン」もみれてよかったので、 みんなにおススメしましたし・・・・「コリオレイナス」はナマ舞台をみたけど、二階席だったので、アップで観たかったので良かったです。東宝で玉三郎の「日本橋」も、ナマ舞台だと1万円以上するだろうけど、3000円で見ることが出来たし。
    夏はロンドンですか?私は6月にシビウの国際演劇フェスティバル(ルーマニア)へ行くことになりました。

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    1. ライオネルさま、コメントありがとうございます。

      アップで見るのがお好きですね(^_^)。私は今回はちょっとアップしすぎでは無いかと思いました。でもおっしゃるように、貴重な舞台を比較的安価で見ることができるライブ・ビューイングは大変貴重ですね。

      ある大御所のシェイクスピア学者がこのライブを見て、ヒドゥルストンが最後に鼻水垂らして大泣きするので、「あんなめそめそしたコリオレイナス始めて見た」と言われたそうです(^_^)。

      夏は指導教官に会いにまたロンドンに出かけます。芝居も控えめにしたいとは思いますが、幾らかは見ます。

      シビウの演劇祭、大変盛んなようですね。日本からも参加する劇団もあるようで、演劇研究者も見に行く方もいるそうです。実り多き観劇旅行になりますように。

      ライオネルさんのブログ、私はもちろんブックマークしていますが、検索しても古い方のブログしかヒットしないですね。検索・エンジンにかからないようにしているのですか。ちょっともったいないような・・・。

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