リュートピア公演
観劇日: 2017.4.22 14:00-17:00(休憩含む)
劇場:世田谷パブリック・シアター
演出:鵜山仁
公演台本:笹部博司
出演:
高畑充希(エレクトラ)
麿赤兒(アガメムノン、アポロン、トアス王、他)
中嶋朋子(イピゲネイア)
村上虹郎(オレステス)
仁村紗和(クリュテミソス)
横田栄司(アイギストス)
白石加代子(クリュタイメストラ)
☆☆☆/5
ギリシャ悲劇を組み合わせて3時間弱のの分かりやすい劇にしている。ギリシャ悲劇だけあって、筋書きは波瀾万丈で非常に面白い。
夫アガメムノンが長女イピゲネイアを人質として殺したと思い込んだ妻クリュタイメストラは愛人アイギストスとたくらんで夫を殺す。しかし、父を殺された娘エレクトラは、実の母に対して、いつか父の仇を打つべく憎悪の塊となってしまった。母とアイギストスの宮殿に留まるエレクトラは憎しみに気も狂わんばかりで夜叉のような様。アガメムノンを殺した当時の状況を言い立てて自己弁護をするクリュタイメストラと、そんな言い訳を聞かないエレクトラという母娘の複雑な関係がこの劇の見どころ。そして、そこへやはり憎しみに燃えるオレステスが到着し、ふたりは復讐を実行に移すが・・・。
上演台本は、ギリシャ悲劇を見たり読んだりしたことがない観客にもとても分かりやすい。台詞は極めて日常的な現代日本語で、また主な俳優の台詞の中に物語の歴史的背景の説明がやや退屈するくらい組み込まれている(原作では、観客は既に物語の大枠は知っていることとして省かれ、また一部はコロスが触れる)。但、このような分かりやすい台詞のために失われたものも大きい。古典劇の儀式的な雰囲気はほとんど感じられず、やや誇張した言い方をすれば、ギリシャ劇をベースにした大衆演劇。古めかしい擬古文的台詞をろうろうと言う、というスタイルで退屈させられるのもどうかとは思うが、これではギリシャ悲劇の素晴らしさを消してしまっていないだろうか。また、費用の問題はあると思うが、コロスというギリシャ劇ならではの素晴らしい仕掛けを使わないのも勿体ない。多くの俳優を使わなくても、劇の引き回し役という形で、語り部ひとりとして使うことも出来ると思う。
最後は神様が出て来て、人間達に対し、「色々と辛酸をなめてもらったが、これを糧に未来に向けて生きていきましょうね」という何とも不思議なポジティブ・メッセージで終わっていて、ずっこけた。これが古典劇のカタルシス?確かに、シェイクスピアの悲劇でも、最後は「残された我らが、苦しんだ人の分まで生きていこう」みたいなことはあるんだが、この台本はあまりに取って付けた強引な終わり方で、カタルシスにならず、拍子抜けした。
と、不満な点も大きいが、素晴らしい点もある。高畑充希は若いにも関わらず台詞は上手いし、声も通り、テレビで知られた人とは思えない実力を感じさせた。何しろギリシャ劇はステージ・プレゼンスが重要で、元宝塚とか、歌舞伎など伝統芸能の人には適している一方、テレビで主な仕事をしてきた人にはなかなか大変だと思うが、立派だ。彼女は体も小さく、押し出しは良くないが、それを精一杯の動きと声で補った。こういう題材では特に白石加代子が素晴らしいのは言うまでもないが、白石と高畑のやりとりがアンバランスに見えなかったことは、高畑の力を証明しているだろう。オレステスの村上虹郎も達者な演技だった。
若い2人を脇で支えたベテラン達は存分に個性を発揮。白石はもちろん、魔赤児、中嶋朋子、横田栄司、それぞれに個性豊かで、楽しめた。
世田谷パブリック・シアターでの上演を見たのだが、元来制作は新潟の公共劇場、りゅーとぴあなので、予算はそれほど多くないと思う。コロスも使わず、俳優が少ないのもそれが一因かとは思うので、蜷川のギリシャ劇のような豪華さを期待してはいけない。予算さえあれば、宮廷や神殿の雰囲気などを多数の役者と豪華なセットで産み出すことはできるだろうが、それは無いものねだりだろう。しかし、脚本がこれで良いのかは、はなはだ疑問だ。本当に新しさを狙うアダプテーションなら、もっと思い切ったことをやるべきだし、そうでなければ、出来るだけ古典らしさから生まれる儀式性を大切にして欲しかった気がする。
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