2017/10/26

日本におけるイギリス中世劇研究の今

今日自室の本棚を見ていて、篠崎書林の『中世ウェイクフィールド劇集』(1987)が目にとまった。これは石井美樹子、橋本侃、黒川樟枝、松田隆美、米村康明、中道嘉彦という先生方による中世劇の綿密なエディション。彼らはその頃、イギリス中世演劇研究会というグループを作って、活発に活動しておられた。更にその後、このグループと4人の執筆者が重なり、奥田博子、中村哲子先生が加わった『イギリス中世・チューダー朝演劇事典』(慶應義塾大学出版会、1998)も出ている。この頃、即ち、1980,90年代が日本におけるイギリス中世演劇研究が最も盛んな時代だった。その後、宮川朝子先生の博士論文『イギリス中世演劇の変容』(英宝社、2004)も出版された。私もこうした方々に刺激を受けて、自分の研究者人生を出発した。

しかし今はどうだろう。上に名前の挙がっている先生方の多くが引退されたり、現役で、研究面でも大いに活躍されていても研究の中心を他の作家・作品に変えられ、中世劇研究からは離れておられる方が多い。一方、今60歳以上のこれらの先生方に続く世代の研究者は、1,2の例外を別にして、ほとんど出ていない。優秀な若手と目された大学院生も、他の職業を目指して、アカデミズムから去って行った。このままでは、日本のイギリス中世劇研究者は殆どいなくなってしまう。昔のような英語圏の中世劇研究者が日本に10人前後いる時代はこれからは来ないだろうし、それどころか、一人か二人が孤独に研究する時代が続くことになりそうだ。孤立すると、刺激も少なく、研究を客観的に見ることもしづらいのが問題だ。

これは他の近代語の中世劇研究でも似たような状態ではないだろうか。あるいは、中世劇分野では一人しか研究する人が居ない言語もあるだろう。ヨーロッパには、西洋の中世劇研究者が一堂に会する学会があるが、日本でも、言語の境界を超えて、西洋中世劇研究者が協力して研究や発表をする機会を作った方が良いかもしれない。

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