2009/10/27

"Endgame" (Duchess Theatre, 2009.10.24)


生の終わりと世界の終わり?
"Endgame"

Complicite公演
観劇日: 2009.10.24 15:00-16:30
劇場: Duchess Theatre (Westend)

☆☆☆☆/5

演出:Simon McBurney
脚本:Samuel Beckett
美術:Tim Hatley
衣装:Christina Chunningham
照明:Paul Anderson
音響:Gareth Fry


出演:
Mark Rylance (Hamm)
Simon McBurney (Clov)
Tom Hickey (Nagg)
Miriam Margolyes (Nell)

カーテンが上がる前から低い不気味な音が劇場を満たしている。やがてカーテンが上がると2つの大きなゴミ箱以外に何も無い荒涼とした地下室らしき部屋。左右の天井近く、人の背丈よりも高い所に、それぞれ1つずつ窓があり、薄明かりが差し込む。ステージ中央に車椅子に座った男、Hamm、が居て、ドアから入ってきたClovとやり取りを始める。

 "Waiting for Godot"でもお馴染みの暴力、依存、愛情の入り交じったような不思議な言葉が2人の間に延々と交わされる。簡単に言えば、車椅子から出られず、また目さえ見えないHammと、その世話をするClov、そしてHammの両親の会話よりなる劇。この両親はステージ右側に置いてあったゴミ箱に入ったまま。最初は蓋がしてある。しかも、母親のNellは途中で死んでしまうらしく、応答が無くなる。父親、Naggもおそらく劇の終わる前に死んでしまう。

HammはNaggに食べ物(ドライ・フルーツ?)をやろうとして、もう無くなってしまったことに気づく。また、彼は決まった時間に痛み止めをClovから貰って飲むことになっているようだが、その時間が来ても、「もう痛み止めは無くなった」とClovから言われる。飢餓や迫り来る死がほのめかされているのだと思う。ゴミ箱の中に入ったままの両親は、返事をしなくなる。Clovも去っていき、Hammだけがステージに残されることに・・・。

タイトルが”Endgame"であることからして、何かの終わりを示す劇だ。少なくとも、Hammの人生は、NellやNaggの人生のように、まもなく終わろうとしているように見える。一体、外の世界はどうなっているのだろうか。このプロダクションの音響や、地下室の様子から、部屋の外も決して明るい平和な世界でないことがうかがわれる。世界戦争の後の荒野? もしかしたらこの部屋が最後の生命が残された場所なのかもしれないなどと、想像させる。

ゴミ箱から突然NaggとNellが顔を出してびっくりしたが、それ以外は特に変わったことが起きるわけでもなく、Compliciteのいつもの、いわゆる「フィジカル」なステージとは言えない。やや退屈して、ぼーっとしていた時もあった。しかし、ClovがHammを残して去ろうとするあたりからは非常な緊張感が漂う。また、それ以上に、見終わった後に強い余韻を残す作品だった。

普通の劇であれば台詞やト書きから如何に観客に納得のいく生き生きしたキャラクターを作るかが、役者の腕の見せ所だろうが、もともとリアリスティックな人物の創造を想定してないベケットの台詞である。「この人物はこういう風にしゃべるだろう」という筋書きをたてられないだろう。演出家と役者は、ひとつひとつの言葉やシーンを積み木のように組み立てていくのだと創造する。私がただ言えるのは、味わいのある演技で、楽しめたと言うこと。

生の終わりと、世界の終わりに向かっているような、終末的な様相を呈し、現代的なプロダクションだった。同様の意味で、先日見た"Mother Courage and Her Children" (National Theatre)を思い出した。

2 件のコメント:

  1. BPです。
    こちらには初コメントですね。
    よい芝居だったようですが、ベケットらしさはあっても
    コンプリシテらしさはあまり感じられなかったようですね。。

    話は飛びますが、昨年ヤングビックで見たベケット(ピーターブルック演出)は
    とても面白かったです。

    返信削除
  2. BP様、コメントありがとうございます。コンプリシテはお好きだったんですよね。

    劇のパンフレットによると、Mcburneyは自分達の公演がphysical theatreとレッテルを貼られるのは嬉しくないようです。但し、台詞に頼りすぎない、全体として「見る」劇を意識してはいるようです。これまでのコンプリシテの公演のような大きなアクションやはありませんが、役者のジェスチャーはナチュラリスティックな動きではなく、非常に不自然だったりして、個性的で、それぞれ工夫が見えました。本当はもう一度意識的に見てみたいくらいです。

    私も去年のYoung Vicでの"Fragments"、見ました。ブログにも感想を書いております。

    返信削除