2016/09/19

『クレシダ』(2016.9.18、シアター・トラム)

観劇日: 2016.9.18   13:00-15:30 (休憩1回)
劇場: シアター・トラム

演出: 森新太郎
原作: ニコラス・ライト
翻訳: 芦沢みどり
美術: 堀尾幸男
衣装: 四方修平
照明: 原田保
音響: 高橋巖

出演:
平幹二朗 (ジョン・シャンク)
浅利陽介 (スティーブン・ハマートン)
橋本淳 (ジョン・ハニマン、通称ハニー)
碓井将大 (少年俳優)
藤木修 (少年俳優)
花王おさむ (ジョン、衣装係)
高橋洋 (ディッキー、経理係)

☆☆☆ / 5

現代イギリスの劇作家、ニコラス・ライトによる2000年初演の新しい劇。初演はアルメイダ劇場。但、ウエストエンドの商業劇場を使ったようだ。その時の主演は、マイケル・ガンボン、演出はニコラス・ハイトナーという豪華版。私は勿論見てない。ルネサンス期イングランドの劇場を舞台とした時代劇なので背景にも興味が持て、また、平幹二朗、高橋洋という芸達者が出ているので、まあそれ程外れることはないだろうと思って出かけた。結果として、かなり楽しめ、充分行った価値はあった。しかし、脚本そのものはいまひとつ弱い感じがした。もう少し面白く出来そうだ。また、俳優の人選や演技にも不満は残る。平幹二朗、台詞は分かりやすく、サービス精神たっぷりで、かならず一定のレベルの演技を見せてくれるが、彼の独特の型みたいなもの、ほとんど歌舞伎に近いというか、それが劇のキャラクターを圧倒してしまい、登場人物シャンクよりも、役者平幹二朗を見る劇となってしまうのが残念。

舞台は1630年のグローブ座。となると劇団は国王一座(King’s Men)。バーベッジ親子やシェイクスピアはとっくの昔に他界している。シェイクスピアの人気は死後も衰えず、伝説上の人物となっているのは、台詞の中でも言及される。マーローやウェブスターの劇も上演され続けている。座長的な地位にあり、若い俳優の教育係をしているシャンクは女性役をやる少年俳優の手配に手こずっていて、田舎の俳優養成所に、数名の少年を送ってくれるように頼んである(そんな組織、あったのかね?)。それでやって来たのが、スティーブン。必死で台詞を覚えてきたが、どうしようもない素人臭さに加え、ひどいお国訛りもある。シャンクは、とりあえず、彼の教育を先輩俳優で、花形女役のハニーに頼む。また彼自身もスティーブンに手厚い演技指導を施し、そのおかげか、スティーブンは短い間に一座の看板女形役者に成長する。しかし、こうした10代の少年達の女形としての寿命は短い。衣装係のジョンも、経理をやっているディッキーも、かっては人気女形だったのだが、今は裏方だ。

平幹二朗、素晴らしい俳優と思うが、どうも彼自身の人間的魅力がにじみ出過ぎるというか・・・。このシャンクという人物、使ってもいない俳優養成費を劇団に請求して私腹を肥やしたことがばれて、今や巨額の借金を負っており、その負債を人気少年俳優を他の劇団に売りつけて返そうと考えたりするけしからんところのある奴。犯罪者とは言えないが、子供を搾取して利益を上げるという点で、『オリヴァー・ツイスト』のフェイギンのようなところもある。でも平がやると、何だか好々爺の教育係になってしまい、全体的に毒が抜けてしまう。しかし、彼の傷が破れて出血し、息絶え絶えの時のディッキーとのやりとりは感動的だ。二人の芸達者の台詞の息がぴったりと合った。そのディッキーの高橋洋、比較的小さな役だが、彼が出て来たシーンは面白い。地味な印象だが、台詞の緩急のつけ方、タイミングの取り方と言い、上手い俳優。

最も残念に感じたのは、田舎臭い少年俳優から一座の花形へ成長するスティーブン役の浅利陽介の演技。設定では、声変わりする前の10代前半の少年。そのためか、子供らしさを出そうとドタバタした演技ばかり目立ち、若者の成長、スター性の獲得、と言ったプロセスが感じられないまま、ある日、大きな役を射止めることになり、解せない。先輩俳優への想いを吐露するところも、叙情を醸し出せない。脚本の問題か、演出の問題か、それとも私の目が節穴? 華が感じられないし、スターになった最後のところでも、美しいとは言いがたい。一方、そのスティーブンにスターの座から追われるハニーをやった橋本淳は良かった。最初に女役の姿で舞台化粧とコスチュームをつけて出て来た時は、はっとする美しさを感じた。彼の場合、もう大人になって、女役がやれなくなる年齢を演じるのだから、俳優の実年齢や実際の姿と近いのでやりやすい。こうした女役の子供をやる俳優の難しい点は、20代前半の大人が5〜10歳以上、浅利の場合は29歳だそうだから、何と15歳程度実年齢より下の子供を演じるのである。しかも、場面によっては、大人の俳優が女性を演じる子供を演じる、という2重の演技をしなければならない。彼らの演技が非常にわざとらしく見えるのも仕方ない。アルメイダの初演では、これらの役は20〜21歳の若者がやったそうだ。身長が低く、顔の表情が年齢を感じさせず、しかも演技の技術がかなりあるということで浅利が選ばれたのだと思うが、成功しているとは思えない。もっとずっと年下の若者を使うべきではなかっただろうか。

というわけで幾つかの不満はあるが、平幹二朗、高橋洋の名演技もあり、楽しい観劇が出来た。

2 件のコメント:

  1. ライオネル2016年10月25日 9:26

    Yoshi様
    平さんが亡くなって、この舞台を見ていらして良かったですね。
    きっと最後の舞台だったのでは、ないでしょうか。
    私も見たかったです。

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    1. ライオネルさま、コメントありがとうございます。本当にあの劇の舞台では元気いっぱいに見えたのですが・・・。でも最後まで衰えを知らず舞台をつとめられ、息子さんも立派な役者に成長し、素晴らしい晩年でした。

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