今回は貝塚泰幸先生による発表、「中英語 Octovian における獅子」を聴きました。Octovian は14世紀のロマンスで、元々はフランス語で書かれた物語を英語に翻案した作品です。Octovian(異綴りではOctavian)はローマ皇帝、彼の皇妃は義母の奸計により、生まれたばかりの幼い双子の男子と共に船に乗せられて追放され、異国を放浪する運命に。赤子のひとりは猿にさらわれ、もうひとりはグリュプス(Griffon:ギリシャ神話の怪物、ライオンの頭に鷲の胴体を持つ)、そして雌ライオンにさらわれるという不幸な運命をたどります。前者の赤子はやがて母親に再会し、後にはこの母子は父の皇帝 Octavian にも正当性を認められます。そしてその赤子は、父と同じく Octavianと名付けられます。後者の赤子、Florent は、雌ライオンが母親のように乳を与え、その後、中産階級の市民に拾われて育てられます。彼はやがて自然にその高貴な血筋を示すようになります。紆余曲折を経て、最後は、父の皇帝、母の皇妃、そしてふたりの成長した息子たちが再会することになります。
というような話らしいんですが、私は予習のために読もうとしたけど半分くらいしか読んでいません。でも既に読んだところまででも色々な出来事が詰め込まれていて、なかなか面白い物語です。特に Florent が中産階級の家庭で育てられるのに、その商人らしい価値観からはずれて、高貴な血筋を示さざるを得ないあたり、「生まれ」と「育つ環境」(nature vs. nurture)の対比が大変興味深いと思いました。まだ半分しか読んでないので、これからぼちぼち最後まで読んで、また考えたいと思います。ウィキペディア英語版にかなり詳しい解説があります。
貝塚先生のご発表は、学問的にディテールにこだわった緻密なものでした。ライオンの描写に焦点を合わせ、いくつか残っている写本毎の特徴を捉えて、北部の写本と南部の写本の違いを明らかにしようという試みでした。まだ論文にするほどのはっきりした結論は出てないようでしたが、着実に発展しそうな研究手法です。彼は以前の研究発表でもこうした写本別の違いを扱っておられ、手堅い研究をしておられます。今後の成果が楽しみです。
この研究会の後は毎回懇親会もあるのですが、私は近年老人性難聴になりつつあり、特にレストランや居酒屋等では人の話が良く聞こえないので、今回も失礼して帰りました。
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