大学の授業がオンラインになっても、学生がキャンパスに入り、図書館や実験室を使ったり出来れば良いのだが、非常事態宣言以降、首都圏にあるほとんどのキャンパスは入構禁止となっている。文化系の学生にとっては、特に図書館が使えないのは痛い。講義で古典的な文学作品を解説しても、その作品を自分で購入しないと読めない。そこで、インターネット上に適当な翻訳作品がないか調べてみたが、著作権フリーの英米文学作品の翻訳はネット上にあまりにも少ないのに愕然とした。中世英文学の古典で言うと、おそらく『カンタベリー物語』も『アーサー王の死』も『農夫ピアズ』も『エヴリマン』も『ベーオウルフ』も、私が知る限り、ない。シェイクスピアだってこれだけ種々の翻訳が溢れているのに、フリーでオンラインで読める訳はどれだけあるのだろうか。青空文庫のシェイクスピアは、坪内逍遙訳の『ロミオとジュリエット』のみ。他は皆、作業中とのこと。
紀要リポジトリなどにあって、URLを示せば足りるような作品があると、和訳の上手下手とか学問的な正確さに多少問題はあっても、学生や教師にとっては大変助かるだろう。初期の『カンタベリー物語』訳などは、70年の著作権を過ぎているものもあると思うが、そういう訳は書籍、それも絶版本でしか手に入らない。英語の場合、中世英文学では TEAMS Middle English Texts など、定評のあるオンラインの教育用エディションが無料で読め、印刷も出来る。その他にも、あらゆる作品、批評、啓蒙的な概説がオンラインで読めるし、日頃から大学の教材として使われている。チョーサーでは、慶應義塾大学の堀田隆一先生の英語史ブログでオンラインで読めるチョーサー学習のサイトが色々と紹介されているが、皆英語のサイトだ。最近では、"Open Access Companion to the Canterbury Tales" という素晴らしいサイトが加わっている。
日本の場合、先生達は翻訳をしても、最初から紙の本として出版し、フリーの紀要類やオンラインサイトで読めるものは極めて少ないし、出版が難しいような珍しい、地味な作品に限られる。これは、書籍として出版していないと学問的な業績として評価されにくいということもあるだろう。日本でも今後は学会や研究会などでもっとオンラインの英米文学の翻訳や教材を充実する手立てを考えてはどうかと思った。この点で特筆すべきは、国際アーサー王学会日本支部のサイトにある「アーサー王伝説解説」だ。それ程分量は多くはないが、どの大学の学生にも近づきやすい分かりやすい解説が揃っている。
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