昨日、中世美術、特にロマネスク美術、の権威、金沢百枝先生の「青花の会」講演を、池袋の自由学園明日館に聴きに行った。今回のトピックは旧約聖書の「カインとアベル」。英語の聖史劇でも上演されるよく知られた聖書のエピソードで、大変参考になった。
私が特に興味を引かれたのは、神が兄弟の捧げ物を受け取る場面の表現。絵画では、髪の右手だけが上部に描かれることが多いようだ。でもどうも火で燃やして捧げているらしき絵もあったみたい。タウンリー劇の「アベルの殺害」ではカインは麦の穂を燃やすんだけど、煙ばかりでよく燃えず、神の不興を示すことになっていて、効果的な脚色がなされている。もう一点特に面白かったのは、アベル殺害の道具の多彩なこと。棒で殴るのが多い。まるで野球のバットかゴルフのクラブを振り上げたみたいな姿勢のカインが描かれる。他には、斧か槌みたいな道具、大小の石なども使われている。更にイングランド(一部、フランス)では顎の骨(cheek bone)が多い。これはタウンリー劇とNタウン劇でも表れる。また古英語の Solomon and Saturn、中英語の Cursor Mundi、そして中世末期コーンウォール語の聖史劇などでも表れるようだ。今までこの骨がどんな格好なのか分からなかったが、今回絵画を見て非常に興味深かった。動物(ロバとか馬か?)の顎に歯がずらっと並んだ骨を持っていた。人間の入れ歯を十倍くらい拡大した感じ(笑)。上下の両顎の一方だけというものが普通のようだが、両顎ともに描かれた骨もあった。可笑しいようなグロテスクなような。誰がいつ考えたのかな。
ちなみに、英語の4つの主要聖史劇は皆「アベルの殺害」を取り上げているが、ヨーク劇は写本が1頁欠落していて、肝心の殺害場面が抜けている。その他の劇では完全に残っているが、チェスターとNタウンは、アダム夫婦の堕罪と楽園追放から連続していて、ごく簡単。一方タウンリー劇の「アベルの殺害」は独立した劇として書かれ、当時の観客にも共感しやすい「中世化」がされており、カインとアベルは、中世ヨークシャーの農夫と羊飼いとして描かれていて、カインの下男も登場する。アダムとイヴの子に下男がいたなんて、聖書の上ではあり得ないんだけどね(笑)。カインはこの下男に暴力を振るうが、下男も負けずに反撃し、殴り返そうとする。アダムとイブの堕罪の後の、秩序の崩壊した社会の有様をこの主人と召使いの関係が表しているとも言えそうだ。英語の聖史劇の中でも最高傑作のひとつと思う。
勉強になり、また、閉じこもりがちな私には、良い気分転換になった昨夜でした。行きがけはまだ炎天下で、暑くてへとへとになったけど、たまには出かけないとね。
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