2010/03/16

Ian Rankin (Jack Harvey), "Blood Hunt" (Orion Books, 2002)

Ian Rankinのアクション・ヒーロー
Ian Rankin (Jack Harvey), "Blood Hunt" (1995; Orion Books, 2002) 421 pages

☆☆☆☆ /5 

Ian Rankinと言えば、しばらく前にこのブログに書いた ”Exit Music"などのRebus警部シリーズで有名なイギリスのクライム・ノベル作者であるが、彼はJack Harveyという別名でも数冊の小説を書いていて、これはその一冊(もっとも、このペーパーバック版では、裏表紙に小さく"a Jack Harvey Novel"と書いてあるのみ)。"Blood Hunt"の主人公はGordon Reeveという元SAS(英空軍特殊部隊)の兵士だったタフガイ。非常に危険で、かつ情報のうえでも繊細な作戦を担当するSASは、高度のトレーニングを受けた人材をかかえている。Gordon Reeveはフォークランド紛争に参戦した後、退役し、今はスコットランドでアウトドア・キャンプ訓練をやって、生計を建てている。

ある時、Reeveの兄でフリーランスの調査報道記者Jimが、ロサンジェルスで謎の死を遂げる。地元の警察署の刑事、Mike McCluskeyは事件をよく調べもせず、自殺と片付けるので、Gordonは自分で兄が死に至る経緯を調べ始めた。すると、Jimは、Co-World Chemicalsという巨大な多国籍企業の農薬の問題に関する不正のもみ消しを暴こうとしていたことが徐々に分かる。しかし、Gordonがそうした調査を開始するやいなや、彼にも危険が迫ってくる。Gordonの調査を止めさせ、それどころか、彼の命を奪おうという人々の背後には、巨大な企業の影、そしてまた、Gorodon自身のSAS時代からの因縁ある宿敵が見え隠れしていた。

しばしば息もつかせぬペースで進行する、アクションに溢れた小説。その点では、Rebusシリーズとは趣が違う。しかし、Gordon Reeveの、過去の戦争の爪痕を引きずる陰影あるキャラクターは、Rankinらしく、この作品の大きな魅力。また、彼の宿敵Jayの悪魔的な邪悪さも説得力がある。更に、Reeveのまわりに出没する人物がひとりひとり、とっても個性的で味わいがある。Gordonを追跡する警備会社の社長でロボット人間のようなAllerdyce、その腕利きの部下Dulwater、兄Jimの協力者だった勇敢なフランス人ジャーナリストMarie Villambard、Jimの飲んだくれの友人Eddie Cantona、スコットランドのボート屋で世捨て人のCreech・・・映画にしてもさぞ面白いだろうと思わせるような癖のある人物ばかり。私は普通、アクションものは、映画では見ても、英語の小説で苦労して読もうとは思わないが、Rankin作品らしく人間ドラマが充実しているので、この"Blood Hunt"は大変楽しめた。しっかりしたキャラクター、魅力的な主人公、そしてふんだんにあるアクション––私の大好きなSara ParetskyのV. I. Warshawskiシリーズを思いだした。

イギリスには、Ruth Rendell、P. D. James、Susan Hillなどによる、文学的なクライム・ノベルを書く一群の作家がいるが、人間心理や社会的背景の追及において、Rankinもそうした作家の一人と言えるだろう。但、前者の女性作家達の主人公が、コナン・ドイルやクリスティーの伝統を感じさせる、芸術家肌のgentleman detectiveの風貌を持つのに対し、Rankinの主人公、そして作風は、アメリカ文学におけるハードボイルド小説、ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルドなどと共通する雰囲気を持っていると感じた。


「日本ブログ村」のランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いします。

にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ
にほんブログ村

0 件のコメント:

コメントを投稿