2010/03/14

"Private Lives" (2010.3.13、Vaudeville Theatre)

キム・キャトラル、輝く!
"Private Lives"
観劇日: 2010.3.13 14:30-17:10
劇場: Vaudeville Theatre


演出:Richard Eyre
脚本:Noël Coward
美術:Lotte Wakeham
衣装:Poppy Hall
照明:David Howe
音響:Jason Barnes
音楽:Matthew Scott


出演:
Matthew Macfadyen (Elyot)
Kim Cattrall (Amanda)
Lisa Dillon (Sybil)
Simon Paisley Day (Victor)
Caroline Lena Olsson (Maid)

☆☆☆☆ / 5

コメディーは、外国人で英語の聞き取りに大きな壁のある私には苦手なジャンル。それに、もともと日本語でも喜劇は関心が薄い。でもこの劇はとても楽しめた。シチュエーションそのものが面白くて、ジェスチャーだけ分かれば、ジョークが分からなくても、結構くすくす笑えるところもあった。主役、脇役全員名演だったが、特にKim Cattrall演じるAmandaは怒れば怒るほど可愛らしくて、素晴らしかった。"Sex and City"という大ヒットしたテレビドラマ・シリーズで有名な人らしいが、私は始めて見たけれど、なかなか魅力的な女優だ。Kim Cattallと言う名前、この劇のために作られた見たいな。というのは、彼女、本当に猫か豹ののように見える。時に可愛くとぐろを巻き、時にごろごろと喉を鳴らし、しかし時には鋭い爪や牙を剥き出しにする!

Macfadyenも非常に良かったが、甘いマスクで、イギリス紳士の典型を演じる時の彼(最近では、"Little Dorrit")とはまったく違う、身勝手な男性中心主義者(昔の劇と言うことを割り引いても)。ファンにはちょっとガッカリさせる姿かも知れない。しかし、その役柄としては、彼ってこんなにたくましい大男だったんだ、と改めて気づかせられる体つき。ホテルでの素敵なタキシード姿、そして、パリの部屋での洒落た、えらく高価そうな絹のパジャマも、その中に隠されているわがままで、力の強い中年男を薄く覆い隠しているに過ぎない。一旦喧嘩が始まると、こわいこと!こわいこと!Catrallは結構あちこち擦りむいたりしているに違いないと思う。

ストーリーは、リヴィエラのホテルに二組の再婚のカップルがハネムーンに来ていて、たまたま隣同士の部屋になる。楽しいハネムーンのはずだったし、甘い言葉もたっぷり交わされるが、ちょっとしたことで言い争いになってしまう。そこで、一方の組の夫と、もう一方のカップルの妻がベランダに出てきて隣のベランダを見ると、何と彼らの前夫、前妻がいるではないか。それで色々と話をしているうちに、消えたはずの昔の炎がまた否応なく燃え上がり、新婚の相手をほったらかしにして、女性の方(Amanda)が住んでいるパリのアパートに駆け落ち。しかし、激しく惹かれ合う二人ではあるが、もともと離婚した原因もそうだったけれど、一方で性格的に非常に反発もしあう宿命。直ぐに大げんかが始まる。その時に、ホテルに残してきたそれぞれの新婚の相手が2人で追いかけてきて、さて・・・。

男女の(そして同性愛の場合は、男性・女性同士の)愛情って不思議なもので、本当に引きつけ合っていると、例えそれが本人達のためにならないような関係でもなかなか離れられない(ちなみに、作者カワードはご存じの通り、同性愛者)。もの凄い喧嘩をして反発しあいながらも、激しく惹かれあう2人の物語。メロドラマ的なロマンスにもなるだろうが、徹底的にコミカルに描いてある。そもそも、彼らにとっては、喧嘩も怒鳴り合いも、そして以前の離婚も、皆愛情表現なんだろう。そして、検閲のあった時代の劇なので、セックスシーンこそ出てこないが、2人の愛情を突き動かしているのは、激しい肉体的な欲情だということははっきりしている。ステージ上で大げさに繰り広げられる暴力、そしていささか人工的な言葉による罵りあいは、観客の潜在意識に、絡み合う肉体とセックスのあえぎのメタファーとなって届いていくのではないだろうか。

典型的なa drawing room comedyだ。ホテルのベランダと、Amandaの居間で全てのアクションが起こる。時間も、3幕で3つに別れているだけ。各幕の間は、ずっと同時進行だ。言葉も人工的だし、ある意味、ギリシャ悲劇みたいである。喧嘩をしてちょっと相手を殴ったり、手当たり次第にものを投げたりするシーンは、非常に正確にタイミングが合っていて、驚き、かつ感嘆した。

ちょっと脱線だが、この劇の言葉が「人工的」とは言っても、昔のミドルクラスの人々はこういう英語をしゃべっていたのだろうな、とも思わせる。実際、私の知人の70歳代のご夫婦の英語など、極めて優雅。f-wordsはもちろんのこと、怒った時でも、神の名前を使ってswearすることも嫌われるので、こちらも言葉のマナーが良くなる。

こういう劇は、とにかく役者さんの演技力如何と、演出家がそれをどう引き出し、マッチさせるかにかかっているのだろう。この公演はその点、満点。星も5にしても良い(しなかったのは、個人的に喜劇にそれほど関心が無いため)。


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