2011/07/10
Nikolai Gogol: "Government Inspector" (Young Vic, 2011.7.9)
古典を徹底したスラップスティックにして大成功
"Government Inspector"
Young Vic公演
観劇日:2011.7.9 14:30-17:00
劇場:Young Vic Theatre
演出:Richard Jones
原作:Nikolai Gogol
翻案:David Harrower
セット:Miriam Buether
照明:Mimi Jordan Sherin
音楽・音響:David Sawer
衣装:Claire Murphy
出演:
Julian Barratt (mayor)
Doon Mackichan (Anna, mayor's wife)
Louise Brealey (Maria, mayor's daughter)
Kyle Soller (Khlestakov、フレスタコーフ)
Callum Dixon (Osip, Khlestakov's servant)
Bruce MacKinnon (judge / shopkeeper)
Eric MacLennan (head of hospitals / shopkeeper)
Simon Müller (school superintendent / shopkeeper)
Amanda Lawrence (postmaster / sergeant's widow)
Steven Beard (Doctor / waiter / shopkeeper)
David Webber (police superintendent / shopkeeper)
Jack Brough (Dobchinsky, a local landowner)
Fergus Craig (Bobchinsky, a local landowner)
☆☆☆☆ / 5
この日は体調不良で最低のコンディション。喜劇を楽しむ気分ではなかったにも関わらず、この公演は大変意外なことに、面白かった。脚本を全部読んでいったのだが、読んでいる間は、古めかしくて、これじゃ到底面白い公演にはならないだろうと思っていた。また、これが翻訳ではなく、翻案 (versionとある)のも気に入らなかった。何か変な細工をして、原作が台無しになっているのではないかと。蓋を開けてみると、とんでもない細工だらけ。ところが、予想を裏切りとても面白かった。
ゴーゴリの『検察官』("Government Inspector")はロシアの田舎町の市長や役人、小市民のせこい汚職や腐敗を諷刺した喜劇。田舎町に、首都の下っ端公務員だが、遊び人で、ギャンブルで借金だらけのフレスタコーフ(Khlestakov)が使用人のOsipと共にやってくる。手持ちの金も尽き、宿屋からは食事も出してもらえないで、ひもじい思いをしている有様。ところがちょうどその頃、その町に政府の検察官がやってくるという知らせが市長の親戚からあった。市長や町のお偉方はこのフレスタコーフを、すっかり検察官本人と勘違いしてしまい、町中のお化粧直しをして表面をつくろうと共に、賄賂の嵐で、彼を丸め込もうとする。一方、いい加減極まりない若者のフレスタコーフは、この誤解を幸いとして、精一杯の贅沢をし、賄賂をせしめ、市長の娘や妻を誘惑し、そしてあと一歩でばれそうだという時に、さっさと町を後にする。市長達が気づいた時は後の祭り。しかも本物の検察官が到着したので、出頭せよ、という公文書が市長のもとに届く。
テキストを読んだ時は、今更こんなこと書かれても、という感じの古めかしい社会批判のリアリズム劇と思えた。しかし今回の公演では徹底的にスラップスティックにして、脚本からは感じにくいドタバタ、デフォルメされた演技、表情、衣装などで、地味な風刺劇が、ドリフターズの喜劇みたいになっていた。妙に明るい照明、チープな、学芸会の手作りのような衣装、オーバーな演技、ステージ中を走り回るアクション、前に座っていた母親の観客が思わず連れてきた子供の目をふさいでしまったようなあからさまな濡れ場、おもちゃ箱から飛びだしてきたような小道具(走り回るネズミ、市長の似顔絵が描いてある風船、賄賂を持った手が飛び出してくる花瓶、等々)。普通の喜劇なら明らかにやりすぎかと思えるのだが、やり過ぎもここまで徹底すると、ユニークさになっている。終わってみると、劇全体が一種のファンタジー、検察官と人違いされたために、ワードローブの向こうの国に入ってしまい、願ったことが何もかも思い通りになった若者の一夜の夢、あるいは、ウサギならぬネズミに連れられて別世界に迷いこんだ「不思議の国のフレスタコーフ」、という感じ。「アリス」のように、この不思議の世界も、不協和音、暴力、冷酷に満ちており、単なる馬鹿話ではなく、十分に諷刺の毒も効いている。
ひとりひとりの配役がよく計算されて造形されていて感心した。フレスタコーフや市長は勿論だが、ほとんど台詞のないドクターなどが何かするだけでとても愉快。市長の、大柄な妻と彼の小さな娘のコンビが、安キャバレーのコスチュームみたいな服を着て色気を振りまき、なんともおかしなお笑いコンビになっていて出色。
しばし体調の悪さを忘れ、楽しいひとときを過ごさせてもらった。しかし、前の席のお母さん、びっくりしてる10歳前後の娘達を前にしてえらく慌てていたが、後でどんな説明をしたのやら・・・。
次の写真はYoung Vic前。
一方、直ぐそばのOld Vicでは、サム・メンデス演出の"Richard III"が始まっていた:
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これって「検察官」だったんですね~
返信削除英語名は知らなかった!
「検察官」ってロシアの劇団のしか見たことがなかったのですけど・・・好きな作品です。
ロシアの劇団(タバコフ演出のとか、ユーゴのとか)のも、おもしろいですよ。
これも、面白ろそうですね。
ライオネルさま、コメントありがとうございます。
返信削除「検察官」という邦題が定着していると思いますが、検察庁の検察官とは違うと思うのですがそれと間違いやすいですね。「監察官」とか、「検視官」などのほうが適当のような気がします。
ロシアの劇団のを見られたのなら、まさに本物ですね。面白かったことでしょう。こういうディフォルメされた演出が普通なのかも知れませんね。 Yoshi