2011/07/22

Rose Tremain, "Trespass" (2010; Vintage, 2011)

南仏の憂鬱
Rose Tremain, "Trespass"
(2010; Vintage, 2011) 373 pages.

☆☆/ 5

これまでにこの作家は4冊くらい読んでいる。特に"The Colour"やオレンジ・プライズを受賞した"The Road Home"には大変感動した。好きな作家である。しかし、今回はあまり引き込まれないまま読み終わった。

物語の起こる場所は主として南フランスの寒村。よく英米人のエッセイや小説で取り上げられる爽やかで陽気な雰囲気ではなく、さびれ、外国人などが土地建物を買いあさっている。Mas Lunelという人里離れた農家にAramon Lundという男が、そして彼の土地の直ぐそばの粗末な家に妹のAudrunが住んでいる。Aramonは獣のような男で、かっては亡くなった父親と共にAudrunを虐待しており、Audrunにはその事への恨みが根深くくすぶっている。しかし、Aramonは酒に溺れ、自堕落な生活をし、農場は荒れ放題で、哀れな状態になっていく。

少し離れたところに、一定の成功をしつつあるガーデン・デザイナーのVeronica Vereyが、レスビアンのパートナーであるKittyと住んでいる。Kittyは水彩画の画家志望者であるが、平凡な才能しか持ち合わせておらず、Veronicaの収入に頼っている。Veronicaにはロンドンに高級アンティック家具のディラー、Anthony Vereyという弟がいる。彼はかっては大変羽振りが良く、様々の有名人を顧客に抱えていたが、今はすっかり落ちぶれ、店を訪れる客も少ない。彼は人生をやりなおそうとVeronicaのところを訪ね、南仏の農村が気に入り、自分も家を探し始める。Aramon Lundの住むMas Lunelが大変気に入り、商談を進める。KittyとAnthonyはVeronicaを取りあって、非常に仲が悪く、お互いに相手をどうやって遠ざけるか算段をする。また、AudrunはもしMas Lunelが売られたら、自分の住むところが無くなりかねないと大変心配になる。そういう時、Anthonyが売りに出た物件を見にに出かけたまま行方不明になる・・・。

Anthonyの失踪をプロットの中心に据えた一種ミステリー仕立ての小説。AramonとAudrunの兄妹、VeronicaとAnthonyの姉弟、というふたつの関係、それにKittyとVeronicaのカップルという3組の愛と孤独の物語。これらの5人の人々は、奇妙に地域や友人から孤立し、大変孤独な人々である。更にAramonとAudrunは虐待した者、された者であるが、しかし奇妙な依存関係で繋がっている。VeronicaとAnthonyは堅い姉弟愛で結ばれているが、それは他人を寄せ付けない排他的なものであり、Kittyを限りなく不幸にする。それぞれ自分の必要に応じて他者を愛したり、利用したりするが、5人とも人間としては魅力に乏しい、閉鎖的で自己中心的なキャラクター。カラカラに乾燥した南仏の大地が、彼らの荒れ果てた人生をくっきりと浮かび上がらせる。彼らの孤独感、疎外感が大変よく書けているが、しかし、それは感動を与えるようなものではなく、むしろ彼らのいびつなメンタリティーを掘り下げて見せる。

魅力的なキャラクターもおらず、特に感動的でもなく、私にはあまり楽しめなかった。但、登場人物の孤独感は良く書けている。農村でありながら、精神の孤島に住む人々という感じであった。

Veronica, Anthony, Kittyの共通点として、全員独身で、子供もおらず、地域のコミュニティーとの結びつきもない根無し草。皆、文化的な人々で、自由に人生を変えられるし、いつでも再出発が可能だが、自分の世界に凝り固まっていて、わびしい心象風景。自分の世界を壊されることに恐怖を感じて、何かと自己防御し、心を閉ざす。場所や環境は違っても、こういう人物って現代人に多いのではなかろうか。私自身も他人から客観的に見るとそう見えるかも知れない。そう言う点では大変考えさせられた。

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