映画の草創期における失われたユダヤ人コミュニティー
"Travelling Light"
劇場:Lyttelton, National Theatre
製作:National Theatre
観劇日・時間:2012.3.6, 14:15-16:45
原作者:Nicholas Wright
演出:Nicholas Hytner
デザイン:Bob Crowley
衣装:Vicki Mortimer
照明:Bruno Poet
音響:Rich Walsh
音楽:Grant Olding
配役:
Motl Mendel, a young director: Damian Molony
Anna Mazowicka, Damian's lover: Lauren O'Neill
Jacob Bindel, a local timber-merchant and Motl's financial backer: Antony Sher
Tsippa, Motl's aunt: Sue Kelvin
Maurice Montgomery: Paul Jesson
Ida, Jacob's wife: Abigail McKern
Aron, Jacob's son: Jonathan Woolf
☆☆☆★★/5
20 世紀前半のポーランドの小さなユダヤ人町('shtetl' と言うそうです)で、映画作りが始まった頃を描いてい ます。小説で言うと、アイザック・シンガーのポーランドを舞台にした 作品のよ うな世界。第2次大戦で消え去ったユダヤ人コミュニティーの暖かさと頑固さ。 そして、映画産業が、ハリウッドだけでなく、旧世界の古いユ ダヤ人コミュニ ティーから始まったという歴史の面白さを、ある若き映画監督Motl(Damian Molony)の青春を通して描きます。そのMotlは、自分の 子を妊娠した恋人Annaを捨 ててアメリカにわたり、ハリウッドで成功しますが、語り手としてストーリーの狂言 回しになって出てきます。
Motlの資金提供者であり、地元の材木業者のJacob Bindel(Antony Sher)が、一種のプロデューサーとして、事細かにMotlに口を出し、二人が対立するのは、今の映画作りと変わらず、笑いを誘います。Antony Sherが無教養だけどお人よしの田舎の親爺を熱演。彼のファンには、それだけでも十分楽しめる舞台でしょう。しかし一方で、無骨な親爺であることを強調しすぎる、しつこい演技と思う人もいるかも知れません。
Hytnerはイギリス生まれのユダヤ人、そしてAntony Sherは南ア生まれのユダヤ人。二人の、自分たちのルーツへの思い入れがこもった、愛情たっぷりの作品でしょう。そう思えば、Sherの多少あくの強い演技も理解できます。
セットや衣装はすばらしく、古いポーランドのユダヤ人町が、まるでシンガーの描く世 界はこうであったか、と言わんばかりに贅沢に背景を飾っています。民話的な 雰囲気があふれるセットでした。
全体のトーンはノスタルジックで、ストーリーもユーモアに あふれ た暖かい内容の劇ですが、特に深みや悲劇性はなく、私はすぐ忘れてしまいそうす。国立劇場で、芸術監督のHytner自身がやらなくてもいいんじゃないか、という印象は持ちました。但し、ほろ苦い青春譜、そして歴史の大きな流れを感じさせる物語で、見て損のない作品です。映画の好きな人、映画史に関心のある人には一層面白いでしょう。
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