『るつぼ』
新国立劇場公演
観劇日: 2012.11.4 14:00-17:40
劇場: 新国立劇場小劇場
演出: 宮田慶子
原作: アーサー・ミラー
翻訳: 水谷八也
美術: 長田佳代子
衣装: 加納豊美
照明: 中川隆一
音響: 長野朋美
出演:
池内博之 (プロクター)
鈴木杏 (アビゲイル)
磯部勉 (裁判官)
浅野雅博
田中利花
関時男
木村靖司
壇臣幸
チョウ・ヨンホ
佐々木愛
戸井田稔
☆☆☆ / 5
見る人によって賛否が大きく分かれているらしい「るつぼ」を見に行ってきた。Twitterの評などでは、中味がなくてあまりにスカスカ、なんていう厳しい評もあった。期待できないのではないかと覚悟していたが、やはりミラーの劇そのものが凄い劇なので私は大いに楽しめた。スタンディング・オベイションしている観客もいらした。但、非常に伝統的な感じ。役者さん達の個性もイマイチだと感じた。主役の2人を除いてはほとんど新劇の役者さんが演じていたと思う。文学座とか俳優座がセットや衣装などにお金をかけて上演出来ればこんな感じになるんじゃなかろうかという印象(但、セットはシンプルだったが)。ミラーの台本が最高だから面白くて当然だけど、新国立の今回のバーションを諸手を挙げて賞賛するとなると、それはそれで良いのか、と思わざるを得ない。同じ趣味を分かち合う劇団員と観客が自分達のために作って観ているような芝居とは違い、公金を使っての上演だからハードルが高くて然るべきだ。新劇の方は台詞ははっきり発話されていて実に良く分かるんだけど、説得力と役柄の個性に乏しい印象は、私の様な演技の分からない観客でも感じる。特にプロクターの奥さんをやった女優さんの一本調子は、意図された演技ではあろうが、朗読を聞いているようであまりに単調すぎ、面白い役柄だけに残念。逆に池内さんはパワフルではあったが、台詞は潰れて良く聞き取れない。
私みたいに俳優の演技の良し悪しとか、演出の読みの深さとか分からない観客は、ミラーの傑作を十二分に楽しめると思う。でも、演出や演技の何か新しい試みとか、深い洞察とかあるのかどうかはわからない。何か、へえー、と思うこととか、ビックリさせてくれることはなくて、おそらく脚本の雰囲気を忠実に再現したという舞台なんだろうと思う。それで充分と思う客と、国立の劇場なんだから、もっと大胆な試みがあるべきだという人で評価は大きく分かれそうだ。照明は明暗がくっきりして大変印象的。
イギリスのナショナル・シアターだと、今までと同じ事やっていたら許されなくて、何か強い個性とか演出意図を示さないと失格だから、そういう意味では、新国立は期待に添えてないかも知れない。結局、新国立劇場って、最近、新劇の俳優さんと演出家に活躍の場を提供するところになっていないだろうか。しかし、私は新劇臭さなどそれほど気にならないし、演技の質の違いも大して分からないので大いに楽しんだ。ミラーの3本の傑作は誰がやっても、上演スタイルの好き嫌いの差はあっても結構見る甲斐があると思える。
アメリカ文学史とか英米演劇史の授業でこの劇の説明があった後で学生さんが見に行くのにぴったりだと思う。私がそういう授業をやっていたら推薦したい上演だ。
(追記)今回の劇は評がかなり割れているようで、私のは甘い方かも知れない。演劇を良く知っている人の劇評を聞いたり読んだりしていると、私みたいに目が節穴の客は劇を見る資格が無い気がしてくる。しかし、入場料を払って演劇界に貢献はしているのだけれど。昔、ただボーッと素直に見ていた時と比べ、なまじっか色々考えるようになり、自分の馬鹿さ加減が分かって、あまり楽しめなくなったと思う。
今週末、見にいきます。
返信削除劇評が分かれているんですね・・・・・・
人それぞれ、感じ方が違うのは当たり前ですよね。
環境や経験が違うのだから。
楽しめば、良いですよね。
ライオネルさま、お久しぶりです。コメントありがとうございます。次のイギリス行きが段々近づいて、楽しみになってきているところでしょうね。
返信削除ブログなどちらちら見ると、全体としてはかなり評判良いみたいです。でも嫌いな方は徹底的に嫌いみたいですね。それだけ新国立劇場には、色々なタイプの観客から国立としての期待もあるということの裏返しでしょうね。ライオネルさんは折角こちらまで来られるんですから、充分に楽しまれますように!