2012/11/06

"Cornelius" (Finborough Theatre, 2012.08.25)


J B Priestley, "Cornelius"

Finborough Theatre公演
観劇日:2012.8.25 (Sat) 15:00-17:00 (one interval)
劇場:Finborough Theatre

演出:Sam Yates
脚本:J. B. Priestley
セット:David Woodhead
照明:Howard Hudson
作曲:Alex Baranowski
音楽・音響:Ben Price

出演:
Alan Cox (Cornelius)
Jamie Newall (Robert Murrison)
Col Farrell (Biddle)
David Ellis (Lawrence)
Annabel Topham (Miss Porrin)
Emily Barber (Judy Evison)
Lewis Hart (Eric Shefford)
Simon Rhodes (Coleman)
Andrew Fallaize (Ex-officer, Dr Shweig)
Beverley Klein (Mrs Roberts, Mrs Reade)

☆☆☆☆ / 5

8月にイギリスで数本の劇を見たが、滞在中は忙しく、帰国後も勉強や仕事、家事などで毎日バタバタしているうちにどんどん時間が経ち、劇のことをブログに書かないまま忘れてしまっている。ただ、この劇だけは、見て直ぐに手書きのメモを取っていたので、それを元に、ストーリーと印象など書いておくことにした。

第1幕では、Briggs & Murrisonというアルミを商う小さな商社の事務所の朝の様子を描く。共同経営者のひとり、Corneliusや社員3人(Biddle、Mrs Porrin、Lawrence)と1人の臨時職員 (Judy) が出社して仕事を始めている。いつもの朝と変わらぬ風景に見えるが、実は会社は倒産の瀬戸際。債権者からの電話が次々にかかってくる。Corneliusは、今北部の方へ営業の出張に出ているパートナーのMurrisonが帰社すれば、きっと良いニュースを持ってくるだろうという一点に最後の望みをかけている。また、世の中の不況の深刻さも伝わってくる(この劇の初演は1935年。大恐慌は1929-33年頃)。次々に戸別訪問の飛び込みセールスがやって来るが、追い返さざるを得ない。そうしたセールスマンのひとりは、身なりはこぎれいにしてはいるが、昨日から何も食べていなくて、その場で倒れる有様だ。

第2幕では債権者の会議が行われている。Corneliusは万事休すの状況だが、そこに共同経営者のMurrisonが営業の出張から突然戻ってくる。CorneliusはMurrisonから良い知らせを期待していたが、頼みのパートナーはそれまでのストレスに押しつぶされたかのように、正気を失っていた・・・。

第3幕 ある日の夕刻でそろそろ退社時間。この幕が始まる前に会社は既に倒産が決まり、この日は会社に社員が出勤する最後の日となっている。社員達がそれぞれCorneliusにお別れを言う。もう若くなくて引退するBiddle、新しい職場を見つけたLawrenceなど、それぞれ、気持ちの整理がついているようだが、Corneliusだけは自分の人生が会社の倒産と共に無に帰したような暗澹たる気持ちのように聞こえる。彼の脳裏には、自暴自棄な考えさえ浮かぶが・・・。

ロンドンのフリンジでも特に小さな劇場のひとつであるフィンバラだが、私は何度もここで素晴らしい劇を見てきた。今回の作品も、なかなか味わい深く、感動的だ。脚本は多くの傑作を残し、20世紀イギリス演劇を語る上で欠かせないプリーストリーによる。しかしこの作品はこれまで全く顧みらず、ロンドンでは70年ぶりの上演とのことであり、それを掘り出したフィンバラやディレクターの慧眼を賞賛したい。

設定は不況に悩む現代のイギリスや日本にぴったり。この会社、Briggs & Murrisonが資金繰りに困って倒産しようとしているだけでなく、イギリス社会全体が窮地に陥っている。セールスにやってくる失業者も、何とかして働きたいという意欲はあるのだが、ペンや紙を売り歩く以外に職がないのである。そういう訪問者の様子で映される外の社会の背景が効果的だ。登場人物の台詞が生き生きしている。色々文句を言いつつも、これからの人生に夢一杯の若い社員Lawrence。そして、年齢を重ねて人生を達観して見つつ、静かな満足感を漂わせる経理担当のBiddle。Miss PorrinのCorneliusへの思慕やJudyのボーイフレンドのことなどが最後の最後になって明らかになり、短い間に色々な小さなドラマが起こる。最後は静かな感動に包まれた。

俳優は皆個性豊かで、味わい深い演技だった。特に主演のCorneliusを演じたAlan Coxの哀愁に満ちた表情が、見てから2月以上経った今も記憶に新しい。彼は名優Brian Coxの息子。また、真面目で細かい経理担当社員を演じたCol Farrellもいかにも、という感じだった。彼はテレビドラマの脇役などでたまに目にする俳優だ。

またロンドンに行く時には是非フィンバラに行きたいと思わせる劇だった。

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