2012/11/11

Mike Leigh, "Another Year" (邦題「家族の庭」) (英、2010)


Mike Leigh, "Another Year"
(邦題「家族の庭」)
(イギリス映画、2010)

監督・脚本:Mike Leigh
音楽:Gary Yershon
撮影:Dick Pope

出演:
Jim Broadbent (Tom)
Ruth Sheen (Gerri, Tom's wife)
Lesley Manville (Mary, Gerri's colleague)
Oliver Maltman (Joe, Tom and Ruth's son)
Peter Wight (Ken, Tom and Ruth's friend)
David Bradley (Ronnie, Tom's brother)
Martin Savage (Carl, Ronnie's son)
Karina Fernandez (Katie, Ken's girlfriend)
Imelda Staunton (Gerri's patient)
Philip Davis (Jack)

☆☆☆☆ / 5

先日WOWOWで放映されたのを録画して見た。

Mike Leighの特に劇的な事は何にも起こらない傑作。原題の'Another Year'という言葉そのもの。つまり「ある一年」というわけだ。春に始まり、冬に唐突に終わる、平凡なイギリス人達の人生の一年間を切り取ったスケッチ。中心にあって、登場人物のハブとなっているのは、TomとGerriという60歳過ぎくらいの夫婦の家庭。大変仲が良く、仕事も上手く行っているようだし、ひとり息子との関係も良好。ふたりで仲良く畑を耕すのが趣味のようで、その家庭菜園のシーンがひとつのリフレインとなって、数回出てくる。ちなみに、「家族の庭」という邦題だが、庭も出てくるが中心的イメージは「庭」ではなくこの菜園だろう。知的で、とても温厚で親切なカップルなので、悩みのある友人を放っておけない。その典型がGerriの同僚のMary。親しい友人もなく、離婚して家族もおらず、経済的にも苦しく、ワインを飲んではめそめそ泣いてばかり。突然押しかけてTomとGerriに迷惑をかけたりもする。同様なのが、アル中気味で、やはりとても孤独なKen。KenはTom夫婦のところでMaryと出会い、彼女の気を引こうとするが、Maryは似たもの同士のKenを忌み嫌って、無礼なまでにあからさまにはねつける。それぞれ、同情すべきところはあるにしても、かなり自己中心的で、自己憐憫に陥りがち。MaryはTomとGerriのところで彼らの息子Joeと出会う。自分と15歳くらいは違うであろう若いJoeに惹かれ、がむしゃらに近づこうとするMary。しかし、後にJoeがガールフレンドのKatieを連れてきてガッカリし、Katieに無礼にそっけなくふるまう様子が、あまりに分かりやすく、情けない。このMaryとKenのその後について、特に観客を納得させるような結末もないまま映画が終わるところも新鮮。

他にも印象的な人物が幾人か出てくる。映画の冒頭は、精神科医のGerriが患者のJanetに色々と質問をしているシーン。Janetは夜よく眠れないので、ただ、「睡眠薬をくれ」、とだけ言い続ける。Gerriは勿論不眠の背後にある理由を聞き出そうとするが、Janetは頑なに口を閉ざす。Janetの硬い岩のような表情が強い印象を残す。また、Tomの兄弟のRonnieが妻を病気でなくし、葬儀のシーンが出てくる。無表情で、口もほとんど開かないRonnie。長年疎遠になって居て、知らせはしたが葬儀に大幅に遅刻した息子のCarlが、かなり遅れて突然現れ、何故待っていてくれなかったのかとけんか腰の口をきく。JanetとRonnieは、プライベートな事、悩み事は口にしたがらない伝統的なイギリス人(イングランド人、というべきか)。

イギリスの映像や舞台で欠かせない、実力ある俳優が沢山出てきて、演技が素晴らしい。Janetを演じたImelda Stauntonはほんのわずかの、カメオ・アピアランスに過ぎないが、見る者を一瞬にして映画の中に引きずり込む。おそらく最も重要な役柄であるMaryを演じるLesley Manvilleは、Maryの孤独、弱さ、身勝手さを見事に表現。David Bradleyの仮面のように心を閉ざした表情も、いつもながら味わい深い。ほんのわずかだが、私の好きな脇役のPhilip Davisが出ていたのも嬉しかった。

Jim BroadbentとRuth Sheen演じる夫婦は、理想のイギリス人カップル、という感じ。私の知り合いに彼らによく似た感じの夫婦がいて、その人達のことを思い出しつつ見ていた。温厚、快活、社交的で、精神的な懐が深い。

MaryやJimのようなはた迷惑な人達も含め、不器用で、お洒落でなくて、実に愛すべきイギリス人が沢山出てきて、見る私としては、申し訳ないがとても楽しいひとときを過ごさせて貰った。繰り返し見たい傑作。この映画を見て、またイギリスに行きたくなった。個人的な満足感では満点。ただ、小品なので、星4つとした。

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