2012/11/10

Ian Rankin, "A Question of Blood" (Little, Brown, 2003)


Ian Rankin, "A Question of Blood" (Little, Brown, 2003)  522 pages.

☆☆☆ / 5

今まで何冊も読んでいるRankinのRebus刑事シリーズの小説をまた手に取った。ベッドタイム・リーディングなので、ゆっくりしか進まなくて、そのうちストーリーが何が何だか分からなくなってきたが、まあ楽しめた。

タイトルの『血の問題』というのは、ひとつは殺人事件の現場に残された重要な証拠となる血液を指すが、もうひとつの意味は、事件の被害者のひとりがRebusのいとこRenshawの息子だったこと。つまり血縁者が被害に遭ったわけだ。このいとこの一家とのRebusの感情的な関わりがじっくりと描かれる。

2つの事件が同時に捜査される。メインとなるのは、あるイギリス軍特殊部隊(SAS)の元兵士、Lee Herdman、が高校で銃の乱射事件を起こしたという事件。彼は高校生2人を殺害し、ひとりに怪我を負わせ、そして自分は自殺した。この元兵士が、戦場や特殊な訓練などがトラウマとなり精神的な問題を抱えていたのではないか、ということが徐々に明らかになる。彼は他の人間とのコミュニケーションに困難を感じていたようだが、唯一彼が親しくしていた人々が高校生達だった。にも関わらず、彼がその高校生達を銃撃したのは何故か。調べていくうちに、彼が付き合っていた高校生達の間にも問題があったのが分かってくる。怪我を負ったが唯一生き残った尊大な男子高校生、James Bell、も何故か詳しくは事件の事を話そうとしない。RebusはRenshawとの血縁関係を隠し、古い同僚で友人でもあるBob Hogan刑事の下で捜査に関わるが、実は被害者家族がいとこであるので、捜査をしてはいけないはずなのである。

高校生の殺害の事件が起こっていた同じ頃、Fairstoneというごろつきの死体が、火事となった自分の家で焼死体となって発見された。Fairstoneは、Rebusの長年のパートナーの刑事、Siobhan Clarke(シボン・クラーク)を職務上の事から恨みを抱いて追い回し、嫌がらせをしていた。RebusはFairstoneが焼死したその晩にFairstoneに会い、嫌がらせを辞めるようにと警告しており、更にその晩(彼自身の説明によると)、酔っ払って誤って熱湯を手にかけてしまい、火傷をしていた。警察内部でも彼に重大な嫌疑がかけられるが、勿論彼はやっておらず、自分へかけられた疑いを晴らさなければならない。

Rebus自身、かって兵士でありしかもSASに志願して特殊な訓練を受けていた。しかし、正式に採用される直前で訓練に堪えられなくなり精神的な問題を起こして不適格となっていた。そういう自身の経歴もあって、彼はHerdmanの背景を追体験するように細かく調べていく。いとこやその妻などRenshaw家の人々への感情的な関わりも加わり、ふたつの事件関係者へのRebusのパーソナルな肩入れがこの物語のひとつの魅力だ。社会から孤立していて、まともな人間関係が作れなかったHerdman、Herdmanの知り合いで露悪的行動に走る女子高生のTerri、Rebusが共感するように見える人物は社会に順応できない人達であり、それは離婚し子供とも疎遠になっており警察の中では厄介者扱いされているRebus自身の姿でもある。しかし終盤で、彼がおそらく誰よりも大事に思っているパートナーのClarke刑事が危険に晒され、いつも冷静なRebusも頭に血が上る一幕があった。家族に加えて仕事場でも疎外されているRebusも、本当に深い絆を感じているのは数人の同僚との関係なのだ。

Rankinの小説は、現代スコットランドを舞台とし、犯罪を主たる材料としつつも、伝統的なキャラクター小説。ひとりひとりの人物に付された陰影を楽しむ事が出来、オースティンとかディケンズを読む時似た面がある。クライム・ノベルにつけるには変な修飾語だが、「安心して読める」小説という感じがする。私がもっと集中して読んでおれば、更に楽しめたと思う。

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