2018/08/12

Kenneth Ives(演出)"The Caretaker" (BBCのドラマ, 1981)

Kenneth Ives(演出)"The Caretaker" (BBC1, 1981)

鑑賞した日:2018.7.22
劇場:British Film Institute, Southbank, London
上映時間:2時間

演出:Kenneth Ives
脚本(原作):Harold Pinter
デザイン:Barry Newbery
照明:John Treays
音響:Richard Chubb

出演:
Warren Mitchell (Davis, a tramp)
Jonathan Pryce (Mick)
Kenneth Cranham (Aston)

☆☆☆☆ / 5

Harold Pinterの現代古典、"The Caretaker"を1981年にBBCがテレビドラマにして放送した。私が渡英中、そのドラマがサウスバンクにあるBritish Film Instituteで上映されたので、見に行った。

この劇には非常に単純なストーリーしかない。Davisというホームレスの男を哀れんで、Astonが彼を自分のアパートに住まわせようとする。そこにAstonの兄弟のMickがやって来て、このアパートは自分のものでもある、と絡んできて色々と難癖を付け、Davisを追い出そうとする。しかし、MickはAstonにも大分遠慮があり、ごり押しは出来ず、兄弟の間に一種独特の緊張感が漂う。Davisは2人の間のそうした遠慮のある関係を利用し、「管理人」(The Caretaker)気取りになって何とかアパートに居座ろうとする・・・というような話。

3人の名優の緊迫感溢れる演技が凄い。元々同じ俳優やスタッフでナショナル・シアターで上演された公演を、ステージをスタジオ・セットに移しただけで、そのままやっているようなので、NT Liveを見ているような感じだった。若い頃のJonathan Pryce、「カミソリのような」とでも言いたい演技にすっかり魅せられて、2時間、飽きずに鑑賞した。

Astonの役柄は慈愛溢れるが謎めいていて、やや人間離れしたキリストのような人物。一方Mickはずる賢く、Davisに色々な悪知恵をささやきかけるイアゴーのような役柄。Davisはこの2人の兄弟に振り回され、迷ったり、強気になったり、自分も色々と知恵を巡らしてサバイバルを計る。こうしてみると、善と悪、そしてその2つの要素の間で揺れ動く哀れな「万人」という道徳劇的な構造を持っていることが分かる。但、中世劇ではないので、どの人物もそれ程単純ではなく、キリストのようなAstonも時には暴君になったりもする。それどころか、慈悲深い神、誘惑する悪魔、悩み迷える人間、という3つの極(役柄)をAston、Mick、Davisの3人が交替して演じているようにも見える。

今回の上映の思わぬボーナスは、Astonを演じたKenneth Cranhamが劇場にやって来ており、簡単な挨拶をしてくれたこと。気さくなおじいさんだった。その後、私と同じ列に座って上映を見ていたようだ。

良い作品なのに、イギリスでもDVDなど出ていないのが大変残念。

0 件のコメント:

コメントを投稿