2019/03/28

"The Son" (Kiln Theatre)

"The Son"

Kiln Theatre 公演
観劇日:2019.3.16 14:30-16:15 (no interval)
劇場:Kiln Theatre

演出:Michael Longhurst
脚本(オリジナルは仏語):Florian Zeller
翻訳:Christopher Hampton
デザイン:Lizzie Clachan
照明:Lee Curran
音楽・音響:Isobel Waller-Bridge

出演:
John Light (Pierre, the father)
Laurie Kynaston (Nicolas, the son)
Amanda Abbington (Anne, the mother)
Oseloka Obi (nurse)
Amaka Okafor (Sofia)
Martin Turner (the doctor)

☆☆☆☆ / 5

今回のイギリス滞在で最後に見たのは、フランスの劇作家Florian Zellerの新作。前日に見た"Downstate"にも劣らぬ強烈な説得力を持った公演だった。

Upper middle classの豊かそうな家庭における精神不安定な男の子(15才くらいか)と父親の関係を中心に描いた家庭劇。父母の離婚、父親の再婚が引き金になって父子の行き違いからくる争いが生まれ、それが息子の精神を不安定にしていく。自傷行為、自殺未遂、精神病院への強制的な入院、そして退院はするが、その後に起こる悲劇。息子の立ち直りと無事の成長を願う父の思いが切ない。息子を救おうともがく父親、しかしその父の愛情や心配が息子にはストレートに伝わらないどころか、ことごとく圧力となって彼にのしかかり、一層心を病んでいく。見始めたときは、ちょっと退屈な家庭劇かな、と勘違いしたが、最後は圧倒的な迫力で打ちのめされた。父親を演じたJohn Light、母親役のAmanda Abbingtonなど、テレビドラマでも良く見る俳優が出ていた。少年役のLaurie Kynastonは実に素晴らしい演技。また、Lizzie Clachanの純白のパネルを効果的に使ったセットが緊張感溢れるこの家庭の心象風景そのもの。白い床、白い壁やドアで舞台を統一し、その真っ白の中で、感情を爆発させた息子が衣類や持ち物、その他飾り棚とか鉢植えなど、平和な日常生活の小物をぶちまけ、家庭の破滅を象徴する。特に期待していなかった公演だけに度肝を抜かれた。これだからイギリスでの観劇は止められない。

しかし、帰宅後しばらく考えていると、欲を言うと、あの劇は何が言いたいんだろう、という疑問は残った。いくら誠実に愛情を注いでも良い方向に向かない息子に対する父親の焦燥と不安は良く伝わるが、息子の精神の不安定は良く説明されないまま(子供が何を考えているか理解出来ないという典型的な親の視点に立っているからか)。冷たくて杓子定規の医師の姿に、現在の精神医療の問題もちょっと触れられている気もするが、大した扱いではない。クライマックスに向かって緊張感を盛り上げる手法は、こういうシリアスなテーマを扱うにはややあざとい感じもした。ドラマとしての緊張感を創り出すために、観客に考えさせることをやや犠牲にしているような気がした。休憩なしの1時間45分では、こうしたことを深く掘り下げることは出来ないだろう。とは言え、凄い緊迫感の劇。

私はストールの見やすい、良い席のチケットを買ったが、34.5ポンド。私にとっては安い価格ではないが、それでも大変お得だ。

これで今回のロンドンでの観劇は終わり。全部で14本見た。私が準備を始めるのが遅くて、見たいと思った劇の切符が売り切れている場合もあったが、大体において希望した劇は見て、良い劇も多く満足だった。渡英の何ヶ月も前から上演予定の演目に気をつけてないと面白い劇を見逃すことになるのだが、ついつい出発直前に慌てて切符を買うことになってしまいがち。次回は気をつけよう、と今は思っているが・・・。

時差が大きいと体調管理に苦労するのは昔からだが、近年は加齢のために一層ひどくなり、滞在中ずっと体調が悪くて苦しかったし、帰国後も調子悪い。それでも、帰国すると、また行きたいと思わせるのが、イギリス演劇の魅力。研究のほうは昨年博士課程の卒業式に出て、その後、部屋に積み上げていた研究書など沢山処分し、もうお仕舞いという感じになった。今の一番の生き甲斐は、日頃倹約しておいてこうして偶にイギリスに劇を見に行くことかも知れない。

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