"A Midsummer Night's Dream" (Bridge Theatre, London)
Bridge Theatre 公演
観劇日:2019.8.21 19:30-22:30 (インターバル20分含む)
劇場:Bridge Theatre, London
演出:Nicholas Hytner
脚本:William Shakespeare
デザイン:Bunny Christie
照明:Bruno Poet
音楽:Grant Olding
音響:Paul Arditti
衣装:Christina Cunningham
動作指導 (Movement Director):Arlene Phillips
殺陣指導 (Fight Director):Kate Waters
出演:
Oliver Chris (Theseus / Oberon)
Gwendoline Christie (Hippolyta / Titania)
David Moorst (Puck / Philostrate, Athenian official)
Isis Hainsworth (Hermia)
Tessa Bonham Jones (Helena)
Kit Young (Lysander)
Paul Adeyefa (Demetrius)
Kevin McMonagle (Egeus, Henry's father)
Hammed Animashaun (Bottom)
Felicity Montagu (Quince)
Jermain Freeman (Flute)
Ami Metcalf (Snout)
Jamie-Rose Monk (Snug)
Francis Lovehall (Starveling)
☆☆☆☆☆ / 5
斬新なアイデアに溢れたニコラス・ハイトナーの劇団の快作。観客を楽しませる術を心得た彼の才能が満開の公演だった。
去年の3月にも同じ劇場でハイトナー演出の『ジュリアス・シーザー』を見たが、その時と同じく、平土間に観客の多くを立たせ、大音響のロック音楽と共に、立っている観客を動かしながら公演に巻き込むというスタイル。こういうのを英語で、"a promnade performance"と言うらしい。私はギャラリーの椅子席に座っていたが、劇場全体を公演の祝祭的な雰囲気に巻き込む演出に飲み込まれた。
とにかく種々の斬新なアイデアが一杯だ。既にどこかで見たようなモチーフもあるが、ハイトナーの味付けを得て、生き返っている。まず何と言っても大きなアイデアはシーシアスとタイターニアの役割の転倒、つまり、台詞の付け替えを行って、惚れ薬の魔法でボトムと一夜の情事に耽るのはシーシアスになっているのだ。もともとこの劇は非常に家父長的な筋書きで、シーシアスが戦争で手に入れたタイターニアを支配するところから始まり、彼女や反抗する恋人達を意のままにするというストーリーが基本の流れ。そこをひっくり返して、タイターニアが権力で妻を縛り付ける夫に対し一矢をを報いる、という爽快な筋書きにした。台詞をこれほど大きく付け替えるのは、シェイクスピアのテキストの熱心な信奉者には腹立たしく、そこで評価が大きく分かれると思うが、一種のアダプテーションの試みと考えれば、大変興味深い。こういうのを多くの公演でやるようになるとウンザリしてくるとは思うが、まだほとんどないと思うのでとても面白かった。私にとっては、この劇につきまとう(そして多くのシェイクスピア劇でも同様だが)、家父長的な後味の悪さを払拭してくれた。また、それに関連して、ヘレナとハーミアの友情が昂じてふたりがキスをしたり、さらにはどさくさにまぎれてライサンダーとディミートリアスまでキスするなど、恋愛は異性同士の専有物ではないという今らしい演出もあった。町の職人達も、男女入れ混じったキャスト。但、劇評を読むと、タイターニアとシーシアスの台詞の入れ替えから、つじつまの合わないところが出て来てしまっているらしいが、細かい台詞が分からない私にはその問題も気づかなかった。しっかり台詞が頭に入っていて、しかも良く聞き取れる人が見ると、印象は大分違ってくるかも知れない。
劇は平土間からせり上がってくる幾つかのステージの上で繰り広げられるが、更にその上にベッドが置かれたり、空中にベッドがつり下げられたりして、立体的な空間の利用になっている。また、俳優の多くがベッドの上で演技をするので、劇全体がまさに一夜の夢、お祭り、ファンタジー、であることをコンスタントに思いださせる仕掛けになっている。ベッドに俳優が陣取るのは、中世劇の類推から見ると、『堅忍の城』の写本と同じである。
視覚的に素晴らしかったのは、4人の妖精達を空中を舞うサーカス芸人のように使っていること。実際、プログラムによると妖精を演じたひとりはサーカスの訓練を受けた人、もうひとりは、ポール・アート(垂直の鉄棒使った器械体操)の専門家のようだ。彼らが、天井からつり下げられたり、鉄棒をくるくる回ったりして、劇場空間を立体的に埋めていく。つまり劇場全体がお祭りにやって来たサーカス小屋の雰囲気になっていた。そうした中、ボトムらの職人達はピエロとも言える。サーカスを重ねる演出は以前ウェブスターの劇の公演でも見たし、ピーター・ブルックの『真夏の夜の夢』の延長線上にもある。但、ブルックの真っ白で何もない舞台と違い、ハイトナーの舞台は過剰なまでにカラフルで装飾的なにぎやかさだ。
俳優の中では、オベロンとタイターニアの台詞の入れ替えにより、タイターニアを演じたグェンドリン・クリスティーが大変堂々として、目立った。大柄の女性で、緑のドレスが素晴らしく映えていた。またボトムを演じたハメッド・アニマショウン(Hammed Animashaun )も観客を乗せるのが実に巧み。
土間に立っている観客を演出の意図通りに動かす、アクロバティックな演技を安全に行う、せり上がるステージや動いたりつり上げたりするベッドを使用する、など1つ間違えば劇の進行がストップしたり、怪我に繋がる事故さえ起こりかねない演出だが、時計の歯車が噛み合うように、素晴らしくなめらかに進んでいて驚く。
色々な楽しいアイデア溢れる演出、そしてハイトナーのアイデアを実現する超一流のスタッフに感心する。文字通り「一夜の夢」を見た思いだ。
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