"Julius Caesar"
Bridge Theatre 公演
観劇日:2018.3.9 19:30-21:30 (no interval)
劇場:Bridge Theatre, London
演出:Nicholas Hytner
脚本:William Shakespeare
デザイン:Bunny Christie
照明:Bruno Poet
音響:Paul Arditti
音楽:Nick Powell
衣装:Christina Cunningham
出演:
Ben Whishaw (Marcius Brutus)
Michelle Fairley (Caius Cassius)
David Morrissey (Mark Antony)
David Calder (Julius Caesar)
Adjoa Andoh (Casca)
Kit Young (Ocavius, a musician)
☆☆☆☆ / 5
その前日にNational Theatreで見たRufas Norris演出の、極めて退屈な 'Macbeth'を見てから一日後、今度はNorrisの前任者だったNicholas Hytnerによるシェイクスピア上演でこれ以上はないほどの満足を得るとは、実に皮肉なものだ。満点にするか迷うくらい素晴らしい公演だった。
Bridge Theatreは新しい劇場で、芸術監督はHytner。この劇場はステージを自由に作り替えられるそうで、今回は空間の真ん中に楕円形のステージを置き、階段状の客席がそれを見下ろすように囲む円形劇場方式。また真ん中をグローブ座のような立ち見の平土間にして、そこに立っている観客を動かしながら上演に参加させる、所謂「プロムナード・ステージング」。実は東京グローブ座でも、来日したイギリスの劇団(どこかは忘れたがRSCではなかろうか?)がこのスタイルで'Julisu Caesar'を上演しており、私はその時に立ち見客の一人としてステージを動きつつ見たのを思い出す。
開演の15分くらい前からステージではロック・コンサートが始まる。ノリの良いロックのリズムに立ち見客達は体を揺すりながら聴き入り、観客は早くも劇場の雰囲気に取り込まれるが、このロック・コンサートが(丁度アメリカやロシアの選挙の演説会であるように)そのままカエサルを応援する政治集会へとなだれ込む。観客を焚きつけ、興奮を盛り上げるのはDavid Morrissey演じるMark Antony。
Caesarが独裁者となるのを防ぎ共和制の理想を維持しようとするCassius(女性に置き換えている)と彼女の仲間達は、有力者Brutusを説き伏せて皆でCaesarを暗殺しようと計画。しかし、Caesarの友人を自認し、また暗殺という手段に大いに疑問を感じるBrutusはなかなか同意しない。Michelle Fairley演じる女性のCassius、大変上手い。また思い迷うBrutusのBen Whishawも説得力ある演技。更に、劇の後半で群衆を自分の有利なよう巧みに扇動するAntonyを演じたMorrissey、ベテランの悠然たる風格が生きたCalderら、ステージのスピーディな変化やロック音楽の勢いに負けない重厚な演技を堪能させてくれた。強いて言うと、男達の権力争いの中で、Calpurnia(Caesarの妻)やPortia(Brutusの妻)の姿がやや霞んだ感じはした(台詞が大分カットされていたのかもしれない?)。また、Cassiusが女性になったことで、Brutusとの強固な繋がり(親友、戦友)がちょっと分かりにくくなった印象はある。
共和制を守ろうという、今で言うなら「リベラル・エリート」が暗殺という非民主的な手段を選んで独裁者を引きずり下ろす。しかしCaesarなき後の権力の空白において、時の流れを利用するに聡いMark Antonyが民衆の応援を得て権力を手にする、という皮肉な流れ。そして一旦乱された秩序は当初の目的とは違い、戦争と破壊の道を辿り始める。別に特定の紛争国を意識した演出ではないだろうが、現代世界の多くの混乱、例えば今のシリアやアフガニスタン、を思い起こさざるを得なかったところがHytner演出作品らしい。
スタイリッシュなステージと音楽、そして名優達の共演で素晴らしい一夜を過ごせた。
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