"Reflections: Van Eyck & the Pre-Raphaelites" (National Gallery, London)
3月7日の午後、ロンドンのナショナル・ギャラリーで開かれている標記の特別展をみた。15世紀のネーデルランドの画家ヤン・ファン=アイクの絵、"The Arnolfini Portrait"(アルノルフィーニ夫妻の肖像、1434年)がラファエル前派の画家達に与えた大きな影響について、同じ展覧会でそれらの絵を並べることで実際に体感してもらおうという試み。「アルノルフィーニ夫妻の肖像」と聞いても覚えがなかったが、実際に絵を見ると、これは西洋絵画に少しでも関心がある人は、いや恐らくほとんどない人でも、知っている有名な絵だと分かった。
ナショナル・ギャラリーはこの絵を1842年に取得して今に至っているそうで、ラファエル前派の若い、まだほとんど10代の、画家達が修行していた頃、当時は今と違い同じ建物内にあったロイヤル・アカデミー・オヴ・アーツに通う傍ら、ナショナル・ギャラリーに来てはこの絵を繰り返し見ていたのは確実だそうだ。当時のナショナル・ギャラリーの古い絵はイタリア・ルネッサンスの絵が大半で、ネーデルランドの絵はこれくらいだったらしく、それまでの殻を破ろうとしていたラファエル前派の画家達を著しく刺激した1枚となったらしい。私は1枚1枚の絵を見ているばかりで、あまり比較することを意識しなかったので、説明書きに書かれている類似点を少し憶えているくらいだが、特に強調されているのは鏡の使用だ。ファン・アイクの絵には凸面鏡が出てくるのだが、これがラファエル前派の多くの絵にも描かれていて、色々とシンボリックな使い方をされているらしい。この展覧会のタイトル自体、鏡に映る「反映」のことだ。
「アルノルフィーニ夫妻の肖像」の精密で非常にくっきりした筆致と色彩は、この展覧会の一番の目玉作品であるジョン・エヴァレット=ミレーの「マリアーナ」にも見られる。ミレーのこの絵を見られただけでも展覧会の入場料を払った価値はあった。彼の名作「オフィーリア」で見られるような精密で華やかな筆致がたまらない。
ネーデルランドの絵画が与えた影響としては、豊かな中産階級の人々の家の中の様子を描くこととか、自然描写なんかがあったかと思うが、展覧会のセッティングや解説は絵画に現れる鏡の事を強調しすぎて、その他の面が霞んでしまっている気がしたが、それは「アルノルフィーニ夫妻の肖像」を中心とした小さな展覧会だから仕方ないのかな、と思った。もう少し広げて、ネーデルランドの絵画全体とラファエル前派を取り上げてくれるともっと面白いかも知れない。とは言え、楽しい時間が過ごせた。
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