2018/03/20

"Humble Boy" (Orange Tree Theatre, London, 2018.3.19)

"Humble Boy"

Orange Tree Theatre 公演
観劇日:2018.3.19 19:30-22:00 (incl. one interval)
劇場:Orange Tree Theatre, London

演出:Paul Miller
脚本:Charlotte Jones
デザイン:Simon Daw
照明:Mark Doubleday
音響と作曲:Max Pappenhem

出演:
Jonathan Broadbent (Felix Humble)
Belinda Lang (Flora Humble, Felix's mother)
Paul Bradley (George Pye, Flora's fiancé)
Rebekah Hinds (Rosie Pye, George's daughter)
Selina Cadell (Mercy Lott, Flora's neighbour)
Christopher Ravenscroft (Jim, a gardener)

☆☆☆☆ / 5

2001年の8月、National TheatreのCottesloe、今のDorfman Theatre、で初演された作品。忘れていたけど、何かおぼろげな記憶があるなと思っていたが、パンフレットやリビューを見たら、初演の舞台を見ていた。Simon Russell BealeとDiana Riggという二人の芸達者が主演していたのだった。今回の再演は大変好評のようで、確かにとても面白かった。

ストーリーの下敷きになっているのはシェイクスピアの『ハムレット』。ミドルクラスのFlora Humbleは最近夫を失ったばかり。ケンブリッジ大学で天体物理学を研究している独身の息子Felixが、ハムレットがガートルードのところに戻ったように、母の家に戻ってくる。彼は科学者としては大変優秀だが、精神的に問題を抱えているようだ。Floraは夫の死からまだ2ヶ月(?)程度なのに、新しい恋人、George Pye、を見つけて、近々結婚しようと考えている(クローディアスにあたる)。この恋人がかなり粗野な男で学問にも理解がなく、繊細な神経を持つFelixをいらだたせる。何故Floraがこんな男に惹かれたのかは謎で、やや無理がある気がした。Felixは昔の恋人Rosie Pyeと再会するが、彼女はGeorgeの娘。今はシングル・マザーとして7歳の娘(Felicityという名前)を育てつつ、看護師として働き、たくましく生きている。ひ弱で男達の言うなりになり、命を落とすオフィーリアとは大分違う。Humble家には親切だが不器用な隣人のMercy(「慈悲」を意味する名前)がしばしば出入りして、ぎくしゃくしがちな家族関係の潤滑油になると共に、そのトンチンカンな言動でしばしば観客の笑いを誘う。シェイクスピア作品で言うと、道化みたいな味を出していた。また庭師のJimが、Felixの落ち着いた相談相手として、離れたところから静かに家族の争いを眺めている。この程度の家で専属の庭師を雇えるわけもなく、シンボリックな役柄に見える。

『ハムレット』を下敷きに現代の白人ミドルクラスの家族の葛藤を描いた作品で、色々と凝った仕掛けがありそうな(私は細かい台詞が分からないのでイマイチ理解不足)コメディー。Alan Ayckbournの三部作、'Norman Conquests'に雰囲気としては似ているかも知れない。但、敢えてケチをつけると、非常に「白人ミドルクラス」劇という色合いが濃厚で、ロンドン郊外の住宅地リッチモンドにあるOrange Treeのような劇場で見ると尚更。観客も私を除くと白人ばかり。それも年配の方がほとんど。その意味で、プロビンシャルな感じがする劇だった。

場面はHumble家の庭のみ。庭と女性(Flora、イブ?)、庭師(Jim、キリスト?)、そして侵入者(蛇、この場合、George?)という、ぼんやりとではあるが創世記的なイメージが重なる。登場人物の名前も含め、道徳劇的な要素も垣間見える。『ハムレット』と大きく異なるのは、この劇の女性たちのたくましさ。夫の死や恋人との別れを乗り越え、自らの意志で新しい人生を切り開こうとする。特に、オフィーリアとは全く違う力強く考え深いRosieの姿に、この劇の希望が託されていると感じた。

俳優達は皆素晴らしい演技で、大いに楽しませてくれた。Simon Russell BealeやDiana Riggのような大物の演技派スターよりも、こうした、日頃は地味な脇役の多い俳優達のほうが、この劇の慎ましい('Humble") 登場人物には合っていそうだ。特にJonathan Broadbentは今後も楽しみな若手だ。

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