2018/03/19

C. J. Sansom, "Lamentation" (2014; Pan Books, 2015)

チューダー朝探偵小説、Matthew Shardlakeシリーズの最新作
C. J. Sansom, "Lamentation"
(2014; Pan Books, 2015)  737 pages.

☆☆☆☆ / 5

イギリスに来てからWaterstonesですぐ買って、それ以来ずっと読んでいた。軽い内容の歴史小説ではあるが、737ページもあるので、私の英語力と読む遅さではあまりに長すぎる。日本にいたら読み終わらないだろうけど、こちらではあまりする事も無いので、ひたすら読んだ。主人公はロンドンの法曹学院 Lincoln's Inn 所属で、一番格の高い法廷弁護士(サージャント)であるMatthews Shardlake。彼を主人公にした小説の6冊目。私はすべて読んでいて、どれも非常に満足しているが、今回もとても楽しめた。

今回Matthewが取り組んだのは、彼が王妃になる前から仕事を与えられ、そして命をかけて忠誠を尽くしてきたヘンリー8世の最後の王妃、Catherine Parr が巻き込まれた新たな事件。舞台は1546年のロンドン。王は足に出来た潰瘍が悪化し、常に痛みに苦しみ、車椅子なしでは動くことが出来ない。翌47年の1月には亡くなるので、その直前である。ヘンリーは自らの離婚をきっかけにイングランドの宗教改革を進めたが、英国国教会は、カトリックに近い、ミサを行い聖体のパンをキリストの肉体と信じる教理を保って、ルターやカルヴァンなどの大陸のプロテスタントは違った道を歩んでいる。王の周辺では、ローマ教会に近い、あるいはカトリックに戻りたいと願う保守派と、一層改革を進めたい者達が争ってしのぎを削っている。物語の始まりでは、保守派が優勢のように見え、Ann Askewなど数人の過激なプロテスタントが異端者として火刑に処せられ、MatthewもLincoln's Innの代表としてその残虐でドラマチックな処刑に立ち会うことを強いられる。

この頃、彼はCatherine Parrとその叔父Lord Parrに呼ばれてホワイト・ホール宮殿に赴く。王妃は彼女の改革派としての信条を綴った告白本、'Lamentation of a Sinner'(『罪人の嘆き』)、を密かに書いており(歴史的にも実際に書かれた本で、ヘンリーの死後出版された)、改革派のThomas Cranmer大司教以外には誰にも見せず自室のチェストに鍵をかけてしまっていたが、それが突如消え失せてしまった。チェストの鍵は彼女が肌身離さず持っており、合鍵はなく、鍵の制作は王室御用達の職人により厳しく管理されていたはずだった。一体誰が盗んだのか、そしてどう利用されるのか?最悪の場合、CatherineもAskewのように異端者として処刑されるかも知れない。また、そこまで行かなくても、王に秘密でこのような告白本を書いたことで、ヘンリーの怒りを買うことは必定だとCatherineの忠臣たちは恐れる。Matthewはこの本を探し出して取り戻すために奔走するが、これまで同様、彼の最大の敵、枢密院顧問のSir Richard Richが暗躍して、Matthewの仕事の邪魔をする。

歴史ミステリだが、謎解きをするというより王妃の書いた本の盗難をきっかけにして繰り広げられる歴史ロマンとして読むのが正しいだろう。今までのSansomの作品同様、一人一人のキャラクターが大変個性豊か。Matthew、彼の忠実な助手のBarak、長年の友人で医者のGuy、宿敵Rich等々に加え、新しい執事のMartin Brocket、Matthewの下で修行を始めた見習い法学生Nicholas、サブプロットを成す遺産相続裁判の当事者Isabel Slanning(カトリック)とEdward Cotterstoke(プロテスタント)の姉弟、その裁判の相手方弁護士Coleswyn、その他魅力的なキャラクターが一杯だ。また1546-47年頃のイギリス史もある程度分かり、巻末にも歴史的背景を説明したセクション('historical note')もあり、勉強にもなる。

このシリーズは集英社文庫で翻訳されつつあるので、この本も待っていればやがては日本語でも出版されると思うが、時間をかけて英語で読む価値が充分あった。

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