2018/03/05

"The York Realist" (Donmar Warehouse, 3018.3.3)

"The York Realist"

Donmar Warehouse & Sheffield Theatres 公演
観劇日:2018.3.3 14:30-16:30 (incl. a 15 min. interval)
劇場:Donmar Warehouse

演出:Robert Hastie
脚本:Peter Gill
デザイン:Peter McKintosh
照明:Paul Pyant
音響:Emma Laxton
音楽:Richard Taylor

出演:
Ben Batt (George, a farmer)
Jonathan Bailey (John, an assistant director)
Lesley Nicol (George's mother)
Lucy Black (Barbara, a local young woman)
Matthew Wilson (Aruther)
Katie West (Doreen, George's ellder sister)
Brian Fletcher (Jack)

☆☆☆☆ / 5

3月1日、雪のロンドンに着いた。もの凄く寒く、睡眠不足の体にこたえる。空港から電車と地下鉄を乗り継いで宿舎の最寄り駅へ。駅から宿舎までの道、雪の中で重いスーツケースを引っ張るのが大変だった。この公演を見た3日の午後も、雪やみぞれが降る寒い午後だった。

さて、この劇は2001年に初演され好評を博した作品のようだ。作家 Peter Gill(ピーター・ギル)は現代のイギリス演劇を代表する劇作家の一人らしいが、私は多分彼の作品を始めて見た。オーソドックスな台詞劇。台詞の微妙な間合いを楽しむべきところがかなりあって、俳優の技量が試されるが、主演の二人(Ben Batt, Jonathan Bailey)は表情豊かな芸達者だった。

場面設定は、1960年代のヨーク市近くの農村。すべてのシーンが農夫Benが彼の母親と住む'cottage'の居間で展開する。cottageとはイギリスでは通例田舎の小さめの民家で、石造りやモルタル作り。大抵かなり古い家を指すようだ(小さな田舎の家でも、新築で現代風の組み立て住宅などはcottageとは言わないだろう)。Georgeはヨーク市の街頭の山車の上で繰り広げられるヨーク・ミステリー・プレイのリハーサルに参加していたが、回りの人々にあまり馴染めずに来なくなってしまったようだ。それで、彼をまたリハーサルに戻るよう誘おうとして、ロンドンから来た助監督のJohnが説得にやって来る。彼らはゲイで、互いに好意を抱いている。GeorgeはJohnに説得されて劇の上演に参加するようになり、ふたりはつきあい始める。インターバル後の後半では、劇の上演が終わり、ふたりは一旦はロンドンとヨークシャーの田舎という地理的な隔たりを克服できずに分かれたことが分かる。しかし、ある時Johnが再びBenのコテージにやって来て、Georgeをロンドンに喚んで二人の新しい生活を築こうと提案する。

中世末にヨークの市民達によって始められ、今も一般の人々の参加で上演が続くヨーク・ミステリー・プレイを背景とした劇なので、私にとって退屈なわけがないが、今回の上演は大変良いリビューを得ているようだ。2人の若者達が徐々にお互いに心を開いていく時の台詞のやり取りが、なかなか異性間の恋愛では見られない繊細さ。Ben BattとJonathan Baileyの演技が上手で見応えがあるシーンだった。イングランドでは1967年まで同性間のセックスは非合法であり、実際にそれで逮捕されることはほぼなかったにしても、公には男性間の恋愛は許されない時代。まして田舎の農村では家族にも隠さなければならない。人が良くて息子の世話に余念が無い母や近くに住む姉も、Georgeが地元の女性Barbaraと結婚してくれることを願っている。周囲の期待もあり、Benと結婚したいと思っているらしいBarbaraもとても哀れ。更に、GeorgeとJohnの間には色々な溝が横たわる。ヨークシャーとロンドンという地理的な違いに加え、都会のインテリと田舎の農民という階級と文化的背景の差もある。そもそもGeorgeがミステリー・プレイのリハーサルから足が遠のいた理由のひとつは、ヨークという北部の都会の人々に馴染めなかったからのようだ。ロンドンに移住してきてくれと説得するJohnに対して、Georgeは(ヨークシャーの農夫の)自分がロンドンに行って一体何をするんだ?、と聞き返す。彼は一度Johnを訪ねてロンドンに行っていて、その時の経験を思い起こす。確かにロンドンは素敵なところだ、美術館や劇場も気に入った、でもそこに住んでも自分がやることはない、と。

ひとつの場所(cottageの居間)を使って展開する家族劇と言える作品で、ワーキングクラスの人々が主な登場人物であり、時代も60年代となると、ロンドンの下町と北部の農村という違いはあっても、雰囲気としてオズボーンとかウェスカーの作品と共通するものがあって、面白かった。ちょっと「懐かしい」、良い意味での「古めかしさ」が漂う劇。

タイトルのThe York Realistだが、元々はヨーク・ミステリー・プレイの受難劇の部分を書いた名前の分からない作者に対し、学者達によって与えられた呼び名だ。聖書に描かれた場面をリアリティーあふれる劇に仕上げ、しかも14、15世紀のヨークシャーの現実を随所に盛り込み、当時の観客にとって、現代的で「リアル」な作品に仕上げている。その中世の演劇上演と、現代のゲイの若者達が置かれたリアリティーが重なり合うところが、二重に「リアリスト」だとPeter Gillは言いたいのかなと思った。

この劇の切符、ほとんどすべて売り切れていて、残っていたやや安い席を買ったのだが、視界が柱でさえぎられ、また舞台の真横にある席のため、舞台の後の方と背景が全く見えなかったのは非常に残念だった。もっと早くからチケットを確保していれば、と後悔した。疲労や腹痛、時差ボケで体調はひどかったが、それでも眠りもせず、大変満足できた!

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