2018/03/25

"The Great Wave" (Dorfman Theatre, National Theatre, 2018.3.26)


北朝鮮による日本人拉致事件を扱った新作
"The Great Wave"

National Theatre & Tricycle Theatre共同公演
観劇日:2018.3.26 14:30-16:45 (incl. an interval)
劇場:Dorfman Theatre, National Theatre, London

演出:Indhu Rubasingham
脚本:Francis Turnley
デザイン:Tom Piper
照明:Oliver Fenwick
音響:Alexander Caplen
音楽:David Shrubsole
ムーヴメント:Polly Bennett
衣装:Natasha Ward
ウィッグ、ヘアー、メークアップ:Gillian Blair

出演:
Rosalind Chao (Etsuko, elder daughter)
Kirsty Rider (Hanako, younger daughter)
Kae Alexander (Reiko, mother)
Leo Wan (Tetsuo, neighbour)
David Yip (Japanese politician)
Kwong Loke (North Korean official)
Francis Maili McCann (Hana, Hanako's daughter)
Vincent Lai (Kum-Chol, Hanako's husband)
Tuen Do (Jung Sun, North Korean trainee spy)

☆☆☆☆ / 5

北朝鮮による日本人拉致事件を、おそらく横田めぐみさんとそのご家族のたどった道をある程度念頭にしてフィクションとした劇である。演出、演技、セットなど皆大変素晴らしく、日本人である私から見ると多少オリエンタリズム的な面で違和感を感じたことを除けば、申し分ない公演だった。また、当然ながら全員が東アジア系の俳優で、ほとんどがUKで演劇教育を受け、活動している方々。イギリスには、実力ある東アジア系の俳優がいるんだなあ、と感心した。

ストーリーは、ほとんどの日本人が知っている北朝鮮による拉致事件の経過を、Hanakoという少女とその家族を中心にして追っている。嵐の夜のHanakoの突然の失踪。原因が分からず、警察にも充分取り合って貰えず苦しむ両親や姉。しかし隣人の若者の努力もあり、日本海側の各地で理由の分からない失踪、誘拐、そして誘拐未遂などがかなり起こっていることが判明する。こうした日本の残された家族の様子を描くのとほぼ交互に北朝鮮に誘拐されたHanakoの、向こうでの暮らしが描かれる。当初の絶望と反抗、そして諦め、日本語の先生としての生活、強制的な結婚、子供Hanaの教育、等々。やがて、小泉政権による北朝鮮との直接交渉と5人の拉致被害者の帰還が実現する。しかしその中にはHanakoは含まれていなかった・・・。

回転舞台を使い、日本海の両岸における時の流れをスピーディーに見せ、元々この問題を知らなかったイギリス人観客も退屈する間もないだろう。リビューではこの劇を優れた'thriller'と表現している筆者が複数あったが、特に拉致事件の具体的な経過を知らない人から見ると、Hanakoは最後に一体どうなるんだろう、と思いながら見るだろうから、そういう表現が当てはまるのかも知れない。しかし、私は見終わったときに、この現実の事件が全く終わっていないことで、何とも言いがたい重苦しい想いに包まれた。名演をしてくれた俳優達に拍手しつつも、カタルシスのような感情はとても起きなかった。

この問題を事実に即して具体的に追いつつも、家族離散の悲しみを中心に描かれていて、例えばナチスの迫害によるユダヤ人家族の亡命や離散とか、現代のアフガニスタンやイラク、シリアなどの国々で苦しんで来た人々の物語と重なるユニバーサルなストーリーに仕上がっていると思う。そういう意味で、英語圏の、予備知識のない人々に是非見て欲しいと思った。

場所が日本と北朝鮮であることをこちらの観客に分かりやすく示すために、リアリティーよりも、オリエンタリズム的なイメージを利用しているのは仕方ないだろう。例えば、現実離れしたミニマリズムの和室、富士山やゴジラへの言及、政治家の机の上の盆栽、等々。一方で、日本人観客が見る場合には必要な、描かれている時代の背景を示す流行歌とかファッションやヘアースタイル、日本海沿岸の街らしい背景等も見受けられない。また、お辞儀の仕方などもやや違和感があった(こちらで見る他の映画やドラマで見るほどではなかったが)。しかし全体としては、無駄な異国趣味を排し、遠い東洋のお話にならないよう、基本的な家族の悲劇に観客の注意を集中させている点は高く評価できると思う。

こちらのストレート・プレイで一般的な、台詞をたたみかけるように発する演技が続く。非常にスピーディーに展開する劇のストーリーとぴったりの演技ではあるが、私の感覚からすると、もっと間を置いた演技をする時があっても良いのではないかとも思い、やはり日本人俳優が同じ内容をやるのとはかなり違うだろうな、とも感じた。但、逆にそれが新鮮に感じられたのも事実で、これはこれで大変良い公演だったとも思う。

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