2018/03/17

"Summer and Smoke" (Almeida Theatre, London, 2018.3.16)

"Summer and Smoke"

Almeida Theatre公演
観劇日:2018.3.16 19:30-22:00 (incl. one interval)
劇場:Almeida Theatre, London

演出:Rebecca Frecknall
脚本:Tennessee Williams
デザイン:Tom Scutt
照明:Lee Curran
音響:Carolyn Downing
作曲:Angus MacRae
衣装:Lucy Martin

出演:
Patsy Ferran (Alma Winemiller)
John Buchanan (Matthew Needham)
Anjana Vasan (Nellie Gonzales, Rosemary, Rosa, Pearl)
Nancy Crane (Mrs Winemiller, Mrs Basset)
Forbes Masson (Rev Winemiller, Dr Cuchanan)
Erie MacLennan (Papa Gonzales, Vernon)

☆☆☆☆ / 5

今回の渡英では脚本を読んだことのない劇が続いていて、私の英語力では理解するのにかなりハードルが高いが、滅多に上演されることのないこの作品もそうだった。しかし、リビューは概して良いようであり、また主演の二人、特にヒロインのAlmaを演じたPatsy Ferranの演技が素晴らしく、それだけで出かけた甲斐があった。

劇自体はウィリアムズの有名な作品と比べるととても単純な作りで、途中ちょっと飽きた。若い女性の肉体的欲望と、それを押さえようとする内心の、あるいは社会的な抑圧との葛藤を延々と描く非常にプライベートな内容の作品。劇中でヒロイン自身がそう言っているが、彼女の名前、"Alma"はスペイン語で「魂」の意味だそうだ(ラテン語の'anima'が語源だろう)。この劇全体がヒロインAlmaの魂の彷徨を描く(中世劇の愛好者である私の語彙を使うと)一種の道徳劇。実際、イギリスの道徳劇の主人公はanima と呼ばれることもある(注)。彼女の内面に押し隠された欲情が激しく沸き立つのが見え隠れしつつ、その一方で、自分自身を押さえつけようとする抑制や家庭と社会の抑圧も強くて、激しい葛藤が生まれる。彼女の父親は牧師で、自分も牧師の娘であるということを強く意識している。彼女がずっと想い続ける幼なじみは、となりの家に住む医者の息子Johnだが、彼は劇の前半においてはかなり自由奔放な若者として描かれていて、Almaを色々な言葉で誘惑してセックスに誘うが、彼女はあと一歩のところで踏みとどまる。Johnは彼女を医者の卵らしい難しい言葉を使って'doppelgangar'(分身)と表現する。つまり彼女は肉体と精神に引き裂かれて身動きが取れず、自分を解放することができないのである。一方、劇の後半になると、Johnには既に、他に決まった女性が出来ており、Almaを遠ざけようとするのに対し、AlmaはJohnへの想いが爆発してそれまでの堅固な自制心を解いて彼を誘うが、既に彼の身体と心は彼女には向いていない。

女性の押さえつけらた肉体的欲望、家父長的抑圧、暴力、精神のバランスを壊した家族(Almaの母親)など、ウィリアム作品の多くで見られる要素が見られるが、他の作品より単純でストレートなので、私にはちょっと退屈な印象が残った。また、英語の理解が十分でない私にとって困ったのは、上のキャスト一覧にもあるように、一人の俳優が意図的に、それも衣装も変えずに、いくつもの役をやることだ。演出家の意図としては、主人公Almaの目から見て同じタイプの人、例えば、自分の父親でる牧師と隣りのJohnの父親の医者、を一人の俳優にやらせることで、ステージ全体にAlmaの視点を行き渡らせようとしているんだろう。しかし私は「今のあの役者がやっているのはだれ?」と何度も戸惑い、混乱する場面が多く、それで肝心の演技から注意が削がれてしまった。

観客席にややせり出すような扇形のステージには椅子だけが置かれ、背景の壁に接して何台ものピアノが並べられて、そのピアノの椅子に演技の終わった俳優が座る。更に彼らは時にはそのピアノで音楽を奏でたりもする。地理的な背景をカットしたシンプルなステージが、主人公の内面の葛藤の具現化をするという道徳劇的な作品内容にふさわしい。ピアノとその前に置かれた椅子は、中世演劇における俳優の定位置と符合する点も興味深かった。

主演のPatsy Ferranの演技は本当に素晴らしい。自分の声と表情を、まるで楽器を演奏するように自由自在に使える女優だ。またJohnを演じたMatthew Needhamも、ワイルドで枠にはまりたがらないところと、中産階級の医者の息子で、インテリでもあるという二つの面を、上手く組み合わせて演じていた。

(注)15世紀の道徳劇 "Wisdom"。

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