BBCが作っているウェッブマガジン、'BBC Historyextra'、に載った記事、 'What Was Life Like for a Medieval Housewife?' (筆者は歴史作家のToni Mountさん)が面白かったので、紹介したい。西欧の中世末期、庶民の女性がどう暮らしていたかを紹介する一般読者向けの、分かりやすい記事だ。
筆者がこの記事を書くに当たって主な材料としているのは中世の3つの作品。最初は、よく知られている、仏語で書かれた『パリの夫』(Le Ménagier de Paris、英訳名は The Goodman of Paris)。そして、中英語で書かれた二つの面白いバラッドが紹介されている。ひとつは、'How the Good Wif taughte hir Doughtir'、もうひとつは、'A Ballad of a Tyrannical Husband'。特に最後の作品は、農民の家庭の主婦の生活が垣間見えて貴重。これらの短い詩はどちらもMedieval Institute Publicationsから出ている中英語で書かれた短い詩の作品集に載っており、オンラインでも読める。
私にとって面白く感じたのは、「粉屋の話」や「商人の話」のような年齢の不釣り合いな、老人の夫と十代の妻と言った組み合わせは、当時の人々(特に男性?)には、妻にとっても良い結婚であると見なされたということ。つまり人生経験豊富な夫がまだ思春期の若妻に半ば父親のように色々と知恵を授けて教育することで、妻は年寄りの夫が他界した後も、良縁を得、世帯経営の能力あるマネージャーになれるという。まあ、そういう考え方もあるだろうが、一方で、「商人の話」のジャニュアリのように若妻を利用するだけというけしからぬ老人もいて、不釣り合いな結婚に眉をひそめる人々が当時からいたことも確かだ。
'How the Good Wif taughte hir Doughtir'では、「バースの女房のプロローグ」でも見られるように、女性がしてはならないことが(例えば、仕事を放り出してあちこち出かけおしゃべりに耽るなど)、ミソジニーの視点から述べられている。その中で面白いと思ったのは、女性が通ってはならない「悪所」の例。まずは、酒場(tavern)。つまり酒場に通う女性もいたということ!更に、先日のブログでも触れたが、レスリングが上がっている。中世においてもこのスポーツはとても広く行われ、おそらく賭博行為も伴っていたのだろうと推測される。更に、'shooting at cock'(原作では、'cock schetyng') とあるのは何だろうか。オンラインで読めるエディションの注を見ていると、杭に繋がれた雄鳥に向かって石を投げるか、あるいは矢を射るスポーツだったようだ。かなり残酷な遊びだが、これもおそらく金銭を賭けて楽しまれた一種の興業、と仮定すると、女性が自分でやるというより、男達がやっているのを見物し、賭けに参加したのかもしれない。酒場やレスリング、そして雄鳥を射る賭場など、こういうところに出入りする女性は身持ちの悪い女(strumpet)だとその後に書かれている。しかし、こうしてみると、中世の女性も、家の中でおとなしく家事に奔走している人ばかりではなかったとわかり、ちょっとホッとする(^_^)。
その後に紹介されるバラッド、'A Ballad of a Tyrannical Husband' では、外で汗を流して厳しい畑仕事をしている自分と比べ、家にいる妻は十分な働きをしていないと文句を言う夫に対し、あなたは主婦の仕事がどんなに忙しいか分かってない、という妻の苛立ちが書かれている。それで、この夫婦は、「では一日お互いの持ち場を交替して、配偶者の仕事がどれほどのものか体験してみよう」と言うことで合意する。残念ながら、連れ合いの一日を体験した結果までは書かれていないのは、このバラッドが未完ということだろうか。面白いのは、外で働いている男の仕事の大切さと辛さを妻は充分分かってないし、感謝してない、という夫と、私が家で遊んでいるとでも思ってるの、という妻の憤りという夫婦の家事労働に関する認識の違い(あるいは夫の無理解)は中世末期の西欧でも、現代の日本でも、大して変わらないということだ。
この記事の筆者 Toni Mount は、中世西欧を題材にしたフィクション、ノン・フィクションを多く出版している作家。
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