2011/09/25

『ペリクリーズー船上の宴』(梅若能楽学院会館、2011.9.23)

能楽堂とシェイクスピアのロマンチックな交わり
『ペリクリーズー船上の宴』 

りゅうとぴあ公演
観劇日: 2011.9.24   17:00-18:50
劇場: 梅若能楽学院会館能楽堂

脚本:シェイクスピア
翻訳:松岡和子
構成・演出:栗田芳宏
出演:柄谷吾史、田上真里奈、西村大輔、山賀晴代、荒井和真、永宝千晶、星野哲也、大家貴志、岡崎加奈、栗田芳宏

☆☆☆ / 5

日本におけるシェイクスピア作品の上演において、既に一定の評価を確立し、海外公演もしている「りゅうとぴあ 能楽堂シェイクスピア・シリーズ」の第七番目の作品だそうである。私はこのシリーズは、白石加代子主演の『リア』のみ見たことがあり、今回2度目。

面白さから書くと、最初少し退屈したが、段々熱気を帯びてきて、1時間50分という短さもあって、全体としてはほとんど飽きる時もなく見ることが出来た。劇団の持つ人的、資金的制限を考えると、驚くほどの完成度と個性と言えると思う。東京で2日、新潟の本拠地で3日という、たった5日間の公演しかないのが残念である。

『ペリクリーズ』は、次々と不幸に見舞われて東地中海の都市国家を転々とせざるを得ない主人公と、その妻と娘の離別と再会を描いた作品。その究極の材源は、今は失われた古典古代のお話とされていて、中世においては広くラテン語で流布し、イングランドでは、古英語でも翻案があり、更に、中英語では、ジョン・ガワーの『恋人達の告解』 (John Gower, "Confessio Amantis") において取り上げられている。ということで、シェイクスピアはガワーを直接の種としているようで、劇中でも話の引き回し役はジョン・ガワー。語り部によって物語られる、ロマンス的な異国情緒に溢れた劇になっている。それが、東洋の舞台と上手くマッチしていた。

但、お話が結構込み入っていて、30人くらいの登場人物が次々と出てくるので、りゅうとぴあの10人の役者でやりおおせるのは大変で、ある程度無理があるように見えた。あれあれ、どうなったのかな、と筋を見失いそうになる時があった。また、台詞が大分簡略化してあるからか、シェイクスピアの豊かな比喩などが少なく感じ、台詞に聞き惚れることが出来ない。物語を簡素にして、能舞台で見せることにより、シェイクスピア作品の枝葉末節を省いて、根幹にある物語の魅力を再発見するのがこの劇団の意図であると思うので、その点では矛盾しないのだが、今回はあまりにも簡略化しすぎたかもしれない。また、長い長い旅路を経て、やっと家族に再会する、というその「長さ」にも意味があるので、2時間弱は如何にも短い。もし劇団にもう少し余裕があれば、俳優を数人増やし、時間も休憩を入れて30分くらい長くできれば、と思った。特に、ガワー役は物語の外に立つのであるから、他の役との重複を避けて欲しいと思う。

劇団主宰者で、ガワーを始め、幾つかの役をやった栗田芳宏の朗々とした発声が素晴らしく、能舞台と良く調和していた。また、主人公ペリクリーズの柄谷吾史、その妻のタイーサ役の山賀晴代なども印象深い。他の方々も立派に演じておられ、一貫したポリシーを持つ個性豊かな小劇団の仕事として、本当に賞賛に値すると思った。

4 件のコメント:

  1. この劇団のことは前からきになっていたのですが、クオリティーがよくわからなかったので出かける勇気がおきませんでした。良い劇団とのこと、次回の公演にはぜひいってみようと思います。ありがとうございました。

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  2. 大変個性豊かな劇団です。演技はフォーマルな、様式的なものですが、特に能を真似ているわけではないと思います。但、能役者が客演することもあります。普通の演技でシェイクスピアをやり、それを能舞台にあげることで生む効果をねらったわけです。好き嫌いが別れるし、アマチュアの方も混じっているので演技にはある程度ばらつきがあるとは思いますが、シェイクスピアに関心のある方は一度見てみる価値はあります。また、AISIIAに作品が入っているので、まだでしたら、登録して、ビデオを見ることが出来ます:http://a-s-i-a-web.org/

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  3. (追記)もしAISIIAで検索される時は、"ryutopia"として検索して下さい。3作品入っています。

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  4. 詳しいコメントを追加してくださり、ありがとうございました。芝居は決して安くないので、安易に定評のある公演ばかり見てしまいます。すこし幅を広げたいと思っていたので、チャレンジしてみたいと思います。webもみてみます。

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