2009/11/22

"The Power of Yes" (Lyttelton, National Theatre, 2009.11.21)


金融危機の発生を解剖する
"The Power of Yes"
National Theatre公演
観劇日:2009.11.21 14:15-16:00
劇場:Lyttelton, National Theatre

☆☆☆ / 5

演出:Angus Jackson
脚本:David Hare
美術:Bob Crowley
照明:Paule Constable
音響:John Leonard
音楽:Stephen Warbeck

出演:
Anthony Calf (The Author)
Jemina Rooper(Masa Serdarevic, a journalist)
Malcolm Sinclair (Myron Scholes, an academic economist)
Nicolas Tennant (Jon Cruddas, MP / Paul Mason, a television journalist)
Simon Williams (a lawyer)
Clair Price (a Financial Times journalist)
Jeff Rawle (Thom Huish, an advisor, Citizens Advice Bureau)
Bruce Myers (Geroge Solos, a hedge fund manager)
David Marsh (a banker)
Jonathan Coy (the 1st chair of the Financial Services Authority)
その他多数。総勢20数名がCast一覧にリストアップされている。


David Hareの"Virtical Hour"のブロードウェイ公演に出演したBill Nighy(ビル・ナイ)は、ガーディアン紙のインタビューでこう言っている、"Hare is 'one of those people like Bob Dylan, I never want him to die. I was thinking the other day, I hope he doesn't die or anything. Because there's gonna be this horrible David Hare-shaped hole in the world like there will be with Bob Dylan. I really dig him, profoundly.' " (ヘアは、私にとってボブ・ディランみたいな人で、絶対に死んで欲しくない。この前ふと考えていたんだけど、私は彼が永久に死んで欲しくないんだ。もし彼が死んだら、ボブ・ディランでもそうだけど、世界にデヴィッド・ヘアの形をした空洞がぽっかり空いてしまうと思う。本当に私は彼が好きでたまらんよ。)

David Hareはまだ現役でどんどん新作を出しているにもかかわらず、既にアカデミックな研究書も出始めた。何しろ、ケンブリッジ大学出版会から、"A Cambridge Companion to David Hare"なんて本も出ているから、シェイクスピアやマーローなみ? 

私はDavid Hareの作品を見るのはまだこれが3作目だと思う。話題を集めた"Stuff Happens"と近作の"Gethsemane"。社会の最も緊急性のある問題を正面から取り上げる果敢さには非常に感心する。日本の劇作家で、こういう事が出来る人がいるだろうか。テレビドラマではたまにNHKで経済問題を取り上げた秀作があるが(例えば『ハゲタカ』)。また、今回のような硬派の経済問題を扱った作品で、National TheatreのLytteltonの大きな客席をほぼ満員にするイギリスの演劇の観客層の厚さにも驚く。日本の場合、大劇場を満員にするためには、20代30代の女性観客に頼らざるをえず、内容も彼女たちに合わせ、役者も2枚目の男性俳優を主役に据えざるを得ないのが現状ではなかろうか。

さて、今回の作品の素材は、目下の金融危機の発生について。大変劇にはしにくい材料だ。Hareが選んだ方法は、ペンと手帳を持った、Anthony Calf演じる作家自身が、なぜ金融危機が起こったかを様々な関係者に取材して回る、という方法。つまり劇を書くプロセスそのものを、劇にしたわけである。経済学者、銀行家、ジャーナリスト、政治家、投資家、末端のトレーダー、その他様々の人々が作家と会い、彼らが見て考えた金融危機の原因と実体について話す。こうして、金融危機が多様な視点から解剖される。大変多くの証言を積み重ねて、事件の全体像を浮かび上がらせるという試みは、"Stuff Happens"でも見られた。今回もある程度は成功していると思う。しかし、金融システムがどうして破壊されたか、という「説明」である。どうしても教室での経済の講義のような、無味乾燥な部分があり、退屈した時もある。また、皮肉に満ちたユーモアがふんだんに散りばめられているようで、観客席では笑いも多かったが、これは私の弱点故だが、英語が十分に分からない私には辛かった。

それでも終盤はかなり盛り上がった。特にClaire Priceの演じたFinancial TimesのジャーナリストがRoyal Bank of Scotlandの前の経営者のFred Goodwinの貪欲さを厳しく指摘するところなどは、大変説得力があり、引き込まれた。実名で著名な銀行家を糾弾するという台詞そのものが迫力満点だが、Claire Priceのたたみかけるような台詞回しも息を飲んだ。並み居るベテラン俳優を圧倒する骨太い名演だった。透明な雰囲気を持つ、繊細な感じの美人だが、台詞に女性にはなかなか見られない力強さがある。昨年の"The White Devil"で感心したが、この作品で見て、実力ある俳優だと再認識。

劇評では、ドラマチックではないという批判が多いようだ。もっとドラマチックにするためには、例えば前述の『ハゲタカ』でのように、金融危機を何人かの人の人間ドラマにしてみせれば良いだろう。例えば、好景気に踊ったトレーダーの成功と破滅とか、金融危機によって一瞬にして家を失い多額の借金を抱えた中流の家庭とか、会社を潰された小企業の社長の自殺とか、そういうエピソードを繋げば感動的な作品になりそうだ。でも、よく考えてみると、Hareはそんな作品を目ざしていたのではなく、金融危機の全体像を大きく掴み、政治家や銀行家を告発したかったに違いない。その意図や良し、しかし、説明的になりすぎ、"Stuff Happens"の時ほどは成功していないと思った。

1 件のコメント:

  1. ビル・ナイはデビット・ヘアが好きだったんですか・・・・

    ビル・ナイって映像で、よく観るので・・・というより、舞台に出るってイメージがなかったので、以外な感じがしましたけど・・・・・イギリス俳優ですものね。
    舞台のお仕事もされるのでしょうけど、やっぱり、イメージが出来ない。
    でも、チャンスがあれば、観て見たいですね。

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