2009/11/01

"Mrs Kleine" (Almeida Theatre, 2009.10.31)


激烈な母娘の葛藤を描く
"Mrs Kleine"
Almeida Theatre Company公演

観劇日: 2009.10.31 15:00-17:30
劇場: Almeida Theatre

☆☆☆ / 5

演出:Thea Sharrock
脚本:Nicholas Wright
美術:Tim Hatley
衣装:Jackie Galloway
照明:Neil Austin
音響:Ian Dickinson

出演:
Clare Higgins (Melanie Kleine, a famous psychoanalyst)
Nichola Walker (Paula, a Jewish refugee)
Zoë Waites (Melitta, the daughter of Melanie Kleine)

Melanie Kleineはウィーンで生まれ、ブダペスト、そしてベルリンで精神分析を学び、やがて精神分析学者となる。1926年にはイギリスに移住し、その後も著名な精神分析学者として活躍し続ける。パンフレットの解説によると、、一般にはフロイトほどは知られていないが、同僚の心理学者に与えた影響は甚大だそうである。劇の舞台は1937年のロンドンの彼女の自宅居間。大陸ではファシズムが台頭し、ユダヤ人が迫害され始めていた頃。劇の始まりでは、メラニーは、ロンドンの自宅にユダヤ人精神分析医で、大陸から逃れてきたが生活に困っている女性パウラを迎え、秘書として雇う相談をしているところだ。

早速仕事に取りかかり、タイプライターを打っているパウラを残し、メラニーは最近ハンガリーで無くなった息子ハンスの葬儀に出席するためブダペストに旅立つ。仕事中のパウラのいる部屋にやってきたのが娘のMelitta。彼女も又精神分析医である。母親メラニーは何でもコントロールしないと気が済まない性格である。更に、母は同業の権威者でもあるので、母娘の関係は相当に屈折していることは直ぐに伝わる。やがて夜になり、メラニーが思いがけず帰って来て、親子はパウラを挟んで、母と娘であると共に、精神分析医同士として、激しい議論を繰り広げる。とりわけこの2人の間には、ハンスの死の謎がわだかまっている。彼の突然の死は、自殺ではなかったのか。メラニーの母親としての責任や愛情をめぐり、メリッタはメラニーにわだかまっていた感情をぶつける。

なかなか面白い素材だ。成功した、子供にとっては偉すぎる親にたいし、ずっと不満を抱き続けてきた子供が大人になってそれをぶつける話は、我々の身の回りにも、文学や映画演劇などにもよくありそうだ。イングマール・ベルイマン監督、イングリッド・バーグマン、リブ・ウルマン主演の『秋のソナタ』も母娘の葛藤の話だった。この作品では、心理学者の親子というひねりがはいる。親子はお互いを分析しあうが、それによって相手をコントロールしようとしているようだ。更に、それを見ている秘書のパウラが、いつしか、反抗するメリッタの代わりに、メラニーの従順な娘のような存在になっていき、一層複雑になる。冷静な科学者同士の分析的口調、母として娘としての感情的な爆発が入り交じる、正に丁々発止の会話劇。

リアリズム劇であるので、ロンドンの豊かな家の居間を再現してあるだけだが、全体を強く赤味を帯びた壁、家具、カーテンなどで統一して、家族の精神的な闘いの激しさを象徴している。それぞれの役柄に合わせた洋服、一夜明けた後の朝の光線の強さ、窓の外にぼんやり見える庭の緑など、実に細かいところまで配慮の行き届いたセット、衣装、照明であった。

3人の役者は名演。Clare Higginsは、私は多分ステージでははじめて見るが、大女優として有名な人らしい。パウラを演じたNichola Walkerは、昨年"Gethsemane" (National Theatre)でも見た人。イギリス人には珍しい(?)、地味で内気な女性の役がとても似合う人。私の好きなタイプの緊迫した台詞劇であり、もっと面白く感じても良いと思いつつ、私はあまりのめり込めなかった。中年男性の私には、母と娘のこのような争いは感情移入できにくい。また、このような激烈な言葉の戦争は、日本人の私には、どうしても現実感を持って受け取れないということもありそうだ。我々はこういう激しい議論を延々とするということは、なかなか無いと思うので(?)、つい距離を置いて、「眺める」姿勢になってしまう。とは言え、役者達の名演を充分楽しんだ。

2 件のコメント:

  1. 劇評を読んでいて、David HareのAmy's Viewを思い出しました。ジュディ・デンチとサマンサ・ボンドが主演したやはり母娘の葛藤をテーマにした劇です。

    アメリカでは父息子の対立が永遠のテーマのようですが、ヨーロッパでは,母娘が?

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  2. "Amy's View"は見てないですが、確かかなり話題になったみたいですね。ジュディ・デンチとサマンサ・ボンドとは、豪華な配役!そう言われると、大陸諸国はわかりませんが、少なくともイギリスの劇では、父と息子というのは目立ちませんね。アメリカはミラーやらオニールやら、父と息子の対立はかなり強烈ですね。やはりアメリカはイギリス以上に男性社会なのかな。また、今回の劇は比較的新しい劇だから、ということもあるでしょう。Yoshi

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