2010/02/14
Ian Rankin, "Exit Music" (2007; Little Brown, 2009)
Rebus警部退場・・・?
Ian Rankin, "Exit Music" (2007; Little Brown, 2009) 530 pages
☆☆☆ /5
タイトルを和訳すれば、『退場の音楽』。イアン・ランキンの人気シリーズもついに終わりを迎えるのか。この作品は、Rebus警部の退職の日まであと10日という時に起こった殺人事件を取り上げている。小説の主な興味は、Detective Inspector John Rebus (ジョン・リーバス警部)のプロフェッショナル・ライフの閉幕だ。殺人事件が3件起きるのだが、それはRebusの退場の花道、あるいは引き立て役となる背景に他ならない。そのせいかどうか、プロットはちょっと肩すかしに終わって、私としては少し不満。Rebusシリーズを何冊か読み、ある程度関心を持って読み始めた人でないと、あまり面白くは無いかもしれない。しかし、Rebusファンにとっては、彼らの大好きな警部の退職を控え、切ない哀愁を感じる一冊だ。
作品内容だが、事件は、ロシア人の反体制詩人Alexander Todorovの殺害である。生前、この詩人と関係のあったロシア人ビジネスマン、そのビジネスマンと繋がっていた銀行家やSNP(スコットランド独立党)の有力政治家、更に彼らと関係があったのは、Rebusの長年の宿敵で、エジンバラの暗黒街の帝王Big Ger Caffertyなどが次々と登場。国際政治、金、国内政治、そして組織暴力や麻薬などが絡み合い、事件は複雑な様相を呈する。Rebusはいつもながらのルール違反すれすれのやり方でこうした政財界の大物と渡り合うので、上役の機嫌を損ねて、引退の日まで、事件の担当から外され、職務停止を命じられる。しかし、彼は長年の同僚、DCI Siobhan Clarke(シボーン・クラーク警部補)と連絡を取りつつ、隠れて捜査を続ける。やがて重要証拠を握っていた人物が襲われたりするうちに、リーバスの退職の日が刻々と近づく・・・。
いつか逮捕せねばと長年捜査を続けてきたBig Gerとの腐れ縁。しかし、最後になって、意外と孤独なRebusと共通点もあって、一瞬互いに心が通じるようなひとときが訪れるのがとても面白い。Rebusの退職と時を同じくして、帝王Big Gerの終幕も又、秒読み状態だ。
DCI ClarkeはまもなくRebusを超えねばならない立場ながら、Rebusを尊敬し、彼の正義感に信頼を置き続ける。警察の公式通りに動き、真面目で気配りに長け、繊細なClarke。彼女はこのシリーズのもう一人の主役であり、切れ者のワトソンだ。一方、型破りで、一匹狼の自己破壊型、アグレッシブなのに心優しいRebus。男女である2人の間に横たわる不思議な友情、師弟愛、そして押し隠された恋愛感情・・・。この2人の様子を行間に読むのがたまらない魅力。
事件の解決の仕方がね、ちょっと拍子抜けしたんだよね・・・。政財界を巻き込んだ大がかりな陰謀の渦と思いきや・・・。
でもいつもながら、非常に濃密な雰囲気に溢れ、(私は行ったことがないけど)エジンバラの冷たく湿った霧が漂ってきそうな小説。その点では大変楽しめる。ランキン・ファンには必読書。しばらくランキンを読んでなかったけれど、又読みたいと思った。
これでリーバス警部シリーズは終わりか、と恐れるところだが、ランキンは彼を何らかの形で再登場させるつもりらしい。それに私の愛するクラーク警部補の今後も大いに気になるところだ。ランキン自身も1960年生まれと若いので、リーバス警部シリーズはまだ続くことだろう。
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