2010/02/11

"Twelfth Night" (Royal Shakespeare Theatre、2010.2.10)


地中海の雰囲気が漂う
"Twelfth Night"

Royal Shakespeare Theatre公演
観劇日: 2010.2.10 14:00-17:00
劇場: Duke of York Theatre


演出:Gregory Doran
脚本:William Shakespeare
美術:Robert Jones
衣装:Christine Rowland
照明:Tim Mitchell
音響:Martin Slavin
音楽:Paul Englishby


出演:
Nancy Carroll (Viola / Cesario)
Alexandra Gilbreath (Olivia, a Countess)
Jo Stone-Fewings (Orsino, Duke of Ilyria)
Richard Wilson (Malvolio)
Richard McCabe (Sir Toby Belch)
James Feet (Sir Andrew Aguecheek)
Mitos Yerolemou (Feste, Olivia's fool)
Tony Jayawardena (Fabian, Olivia's servant)
Pamela Nomvete (Maria, Olivia's chambermaid)
Sam Alexander (Sevastian, Viola's twin brother)
Alan Francis (Sea Captain, Sevastian's friend)

☆☆☆/ 5 (あるいは、☆3.5)

雪がひらひら舞う寒い一日、久しぶりにロンドンの劇場に行った。2ヶ月以上、出かけておらず、劇場にいるだけで何となく楽しい。この公演も、身を切る風に吹かれつつ出かけてきた私にとって、気持ちを暖かくしてくれるような優しい雰囲気に満ちていた。Gregory Doran演出のシェイクスピア作品であり、喜劇の名作であるから、楽しめるのは間違いない。しかし、欲を言えばちょっと物足りなかったかな、という印象ではあった。

まず目につく点としては、この作品の舞台Ilyriaにかなり忠実に場所を設定してあること。パンフレットによると、シェイクスピアの時代、オットマン帝国の一部であった地域で、今のアルバニア周辺にあたるそうである。従って、ヨーロッパとアジア、キリスト教文化圏とイスラム文化圏が交わる乾燥して暖かな東地中海の、エキゾチックな雰囲気のセット、照明やコスチューム。伝統的な演出での、エリザベス朝イングランドの、牧歌的でメランコリックな雰囲気は薄れ、それを不満に思う人もいるかも知れないが、私はきれいなセットや照明に好印象を受けた。芳醇な雰囲気に溢れた上演である。舞台の背景は、かなり歳月を経た感じが上手く出ている、薄茶色のレンガの壁。それを柔らかい照明が照らす。照明には細かい工夫も感じられた。フェステの台詞に合わせて、わずかな時間であるが、観客席も含めて劇場全体を明るくしたり、真っ暗にしたりした時もあった。観客席とステージを同時に明るくするのは面白い試み。室内劇場に、昼間のグローブ座のような祝祭的な雰囲気が一瞬かもし出されてハッとした。これは歌舞伎の劇場と共通するが、日本の演劇から色々と学んでいるGregory Doranの思いつきか?

この劇の最大の見どころは、もちろん清教徒的な潔癖さとプライドで膨れあがったMalvolioと、彼に対するTobyらの嘲笑である。ところが、Richard WilsonのMalvolioはどうも年を取りすぎで、好々爺に映ってしまった。憎たらしい毒気に満ちたMalvolioを笑い飛ばし、プライドをへし折ってこそ面白いのだが、Wilsonに十分なパワーが感じられず、なかなか憎たらしいところまで行かない。黄色い靴下のシーンも、それほどの笑いを誘わず、むしろ可愛らしい、と言う感じ。愛すべきMalvolioも悪くは無いが、そうなると、後の懲罰が残酷すぎて、悲痛な老人になってしまう。Richard McCabe演じるSir Tobyが非常に野卑で力強い人物に仕上がっているだけに、弱い者いじめに見えて仕方ない。それに比べると、Donmar WestendでのDerek JacobiのMalvolioとRon CookのSir Tobyの組み合わせは絶妙だったな、と思い出した。

そのRichard McCabeはMalvorioとは違い、酒と汗と体臭のぷんぷん臭う、たっぷり脂肪のついた腹からズボンがずり落ちそうな、エネルギッシュなSir Toby。Sir Tobyが一番目立つ"Twelfth Night"というのもちょっとバランスに問題があるが、見応えのあるキャラクターに仕上がった。McCabe扮するTobyが景気づけに本物の生卵を何個も割って一気に飲み干すシーンでは、彼の役者根性に脱帽!

Oliviaはかなり変わった造形。Alexandra Gilbreathはもうあまり若くない女優だ。自分よりずっと若くてハンサムなCesarioにうつつを抜かす、女盛りを過ぎた女性の屈折した感情の起伏をダイナミックに表現している。ただ、個人的な好みとしては、もう少し若い女性の方が、ロマンチックな雰囲気が出て良かったのに、とは思うが・・・。

Violaを演じたNancy Carrollも普通この役をやるような人よりやや年が上の女優に見え、その点はちょっと気になった。但、このキャラクターの持つ傷つきやすさ、繊細さを細やかに表現できていたと思う。こうして考えると、Malvolio、Olivia、Violaの3人を、一般的な公演よりやや年長の役者に当てているように見えるが、意図的なものだろうか。

船長を演じたAlan Francisがひどく癖のある台詞回しをしており鼻についた。FesteのMiltos Yerolemouは、フールらしい体つきやエキゾチックな雰囲気を持ち、巧みな表情で、狂言回しの役を上手くこなしていた。しかし、歌はかなり下手。歌が重要な劇だけにやや残念。

"Twelfth Night"は良く上演される演目だけに、ロンドンの観客の点も辛くなりがちだろう。しかし、多少の難点はあっても、十分に楽しめるエンターテイメントに仕上がっていたと思う。家に帰ると、道にうっすら雪が積もっていてびっくり。真冬を舞台にした劇を見た後に相応しい一日の終わり。

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8 件のコメント:

  1. イギリスへ戻られたのですね。長旅お疲れさまでした。

    ロンドンの劇場は日本の劇場と比べ、雰囲気などやはり違うものですか。日本の劇場は近代的な造りのものが多いような気がします。

    一度は本場で観劇してみたいなぁと思いました。 Kaoringo

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  2. Kaoringoさま、

    ロンドンのウェストエンドの劇場の多くは19世紀末から20世紀始めに作られましたので、かなり古く、古き良きイングランドの雰囲気を持っています。今回のDuke of York Theatreも1892年創立です。但、ロビーや廊下も狭く、席は小さく、カフェもなく、トイレも不足し、観客にとっても劇場関係者にとっても使いにくい建物が多いです。 Yoshi

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  3. ライオネル2010年2月11日 20:47

    この舞台ご覧になったんですね!
    私もちょっと、興味はあったんですけど・・・・・
    チケットの売れ行きがよさそうだったので、評判もまずまずだった様ですね。

    >Derek JacobiのMalvolioとRon CookのSir Tobyの組み合わせは絶妙だったな、と思い出した。

    ↑私もそう思ったので、コレをみないで「インスペクターコール」にしました・・・・・でも気にはなっていたのだけど、ちょっと安心しました!やっぱりドンマーのほうが良かったみたいなので。

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  4. ライオネルさま、

    確かにドンマーの"Twelfth Night"にはかなわないと思います。Malvolioの貫禄が違うと思いました。McCabeのTobyは大変良いのですが、Malvolioを食ってしまって、彼の名演が逆効果になったように感じました。MalvolioにJacobiクラスの俳優を持ってきていれば、こちらのほうが面白かったかな。Richard WilsonはBBCテレビの”Merlin"で主人公の先生役の魔法使いをやった老人ですね。キャリアを積んだ人だけに台詞回しはきれいで、味があるのですが・・・。

    但、セットとか、照明、そしてOliviaやViolaの造形などに新味があり、Gregory Doranはさすがと思いました。見て損の無い公演であったと思います。私の感じでは、"An Inspector Calls"よりはずっと面白かったです。但、私はウェストエンドの"An Inspector Calls"は2度目でしたので、新鮮に感じられなかったのですが。口うるさい批評家よりも、一般の観客受けする舞台でした。 Yoshi

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  5. いよいよ、来週15日から19日まで、短い滞在ですが帰国以来約一年ぶりのロンドン訪問です。主な目的はバービカンのピーターブルックですが、この作品も着いた日の夜に予約しました。

    何かで到着が遅れた場合は最悪捨ててもいいや、というつもりでとりましたので、見られれば儲け物、だめでもあきらめがつく、と評価したのですが、だいたいあっているかな、と評を読んで思っています。

    今回の滞在では他に、Waiting for Godot, Cat on the Hot Tin Roofを予約。EnronとNationalのPower of Yesもマチネで見たいと思っています。アルメイダのMeasure for Measureがとれなかったのは残念。

    滞在はFinsbury Parkの友人宅です。できたらArchiveやLibraryにも行きたいけど欲張り過ぎかな。。

    今夜の関東は雪になるようです。ロンドンはどのくらい寒いのか。。防寒対策が気になっています。。きちんといかなきゃ。。

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  6. すみません、おわかりだと思いますが、上の投稿、BPの投稿です。グーグルのユーザーネームがblank101なのでそれだけ表示されてしまい紛らわしくなってしまい失礼しました。あと一番最後、「きちんと準備していかなきゃ」の「準備」が抜けてしまいました。

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  7. BPさま、
     私の住む東部ケント地方は、今朝は10センチを超える積雪でした。大学も半ば休業状態のようです。ロンドンでは雪がたまにちらつく程度のようです。ご滞在中に雪が積もらないと良いですねえ。いずれにせよ、今年のイギリスの寒さはかなり厳しく、気温は昼間でも2、3度の日が多いです。雨の多い国ですから、寒くなれば積雪の可能性もありますので、ご用心下さい。

    短い間に強行軍ですね。体を壊されないよう充分お気をつけ下さい。充実した観劇が出来ることをお祈り致します。 Yoshi

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  8. 使いづらいとなると少し残念ですが、雰囲気がいいと聞くととても嬉しくなります。近代的なものもまたいいですが。
    教えていただきありがとうございました! Kaoringo

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