何の変哲もない倉庫の入り口みたいに見えるが、これもカンタベリーの由緒ある歴史的建造物のひとつ。16世紀のカンタベリーの名家、ローパー家の屋敷のゲートのみ残って、こうしてあとで作られた建物の一部として見ることが出来る(手前の白っぽいレンガの部分のみ)。チューダー朝というと、民家は木の柱とモルタルの造りの建物で、城や寺院は石造りというのが普通だと思うけれど、もうこうしてレンガが使われていたようだ。言われなければ、19世紀のものかと思ってしまうところだ。もとのローパー家の屋敷は、Place Houseと言われたそうだが、今残るのはこの部分だけ。
3つ長方形の窓があり、その上にまた円形の窓がある。まわりには、色々と装飾も施してあり、レンガの建物としては、なかなか凝った造りである。勿論、木の扉は当時のものではない。
この門の元の建物、Place Houseを所有していたのは、法律家であったWilliam Roperだが、彼の妻は、ルネサンス英国を代表する才女、Margaret Roper。彼女はSir Thomas Moreの長女であり、幼少より英才教育を受け、ラテン語や古典ギリシャ語を解し、エラスムスやジョン・ラステルを始め、モア・サークルと呼ばれる知識人と親しく交わりつつ育った。Moreの家族や友人の中でも特に熱心に父を助け、危険を冒して最後まで獄中の彼を度々訪問した。国家権力に刃向かったMoreの著作を収集し、出版の準備をしたのも彼女であり、そのおかげで現代の我々もMoreの書物や手紙の多くを読むことが出来ることになった。Moreがヘンリー8世の離婚に反対して死罪にされたあと、さらし者になっていた遺骸を密かに引き取り、カンタベリーに持ち帰って、このRoper GateのすぐそばにあるSt. Dunstan's Churchに埋葬したのは彼女である。このあたりのことは、伝記文学の傑作、John Guy, "A Daughter's Love"に詳しい。と言うわけで、それ程感激するような美しい建物でなくても、歴史を思い起こしながら見ると楽しい。場所はウエスト・ゲートから街の外側に5分弱歩いたあたりにある。
どう見ても、壁の表示板を読まない限り、倉庫かと思いますね。
扉の左側にある説明のプラックを大きく撮ったものが下の写真です。
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