2018/09/13

NHK ETV特集「自由はこうして奪われた~治安維持法 10万人の記録~」

8月18日に放送され、録画しておいたこの番組をやっと見た。小林多喜二の拷問による獄中死とか、共産党員の弾圧はよく知られているが、治安維持法が如何に拡大解釈されたかは私はよく理解していなかった。治安維持法が、共産党対策から、共産主義には関心も知識も無い一般大衆を統制するのに使われるようになった経緯は、天皇の緊急勅令による拡大解釈があった。特に、この法律の下、日本人以上に植民地の人々が苦しめられたことが明らかにされている。日本本土では、拷問による死はあったが、この法律の下での正規の死刑は科せられなかった。しかし、朝鮮では59人が死刑になった。共産党弾圧に始まった取り締まりは、やがて、労働組合員や組合関連の会合や読書会に出た人、新築地劇団などの劇団員等の文化人、燈台社など平和主義のキリスト教の信者、なども含まれるようになる。共産党員の家族も取り調べを受け、番組に登場した女性は14才で勾留され、手の爪を痛めつけられるなどの拷問で取り調べを受けた。その時の恐怖は100才近い今もトラウマとして残る。共産主義者を法廷で弁護した弁護士もまたこの悪法により検挙され、共産主義者を裁く法廷には弁護士がつきたくてもつけない、という法治国家と言えない状況が生まれる。更には、検挙者には単に庶民の人物画を描いていた高校生もいた。特高は共産主義が何かも知らない学生に「自白しろ」と迫り、無理矢理無知な若者に共産主義者であるとの嘘の自白をさせた。特高のこうした自白偏重はその後、日本の刑事司法の伝統になり、今の警察や司法に受け継がれたと、番組に登場した刑法学者は言う。この点は本当に重要だ。

特高に取り調べられた人は、20年間で10万1654人。第2次大戦後、特高警察にいた人々は罷免されたそうだが、罪を問われてはいないだろう。45年前から、治安維持法の被害者や支援者が、国に対して謝罪や実態調査をして欲しいという請願運動を続けているが、国はまったく応じていない。国の姿勢は、「治安維持法は当時適切に制定されたものであり、この法律による勾留・拘禁については謝罪や調査の必要はない」というものである(金田勝年元法務大臣の弁)。この非人道的答弁を見ても現政府が戦前の全体主義国家の要素を引きずっていることが分かり戦慄する。

治安維持法が作った悪しき伝統は今も脈々と引き継がれ、司法における自白偏重、警察と検察の無謬の原則、検察に刑事告訴された人の100パーセント近くが有罪になるという異様な現在の日本の司法を生んでいると言えるのではないか。日本では戦後が終わっていないどころか、これらの被害者やその家族にとっては、戦前も終わっていない。

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