2011/05/15

"Autumn and Winter" (The Orange Tree Theatre, 2011.5.14)

スウェーデンの代表的劇作家の家庭劇
"Autumn and Winter"

The Orange Tree Theatre公演
観劇日:2011.5.14  15:00-16:45
劇場:The Orange Tree Theatre, Richmond

演出:Derek Goldby
脚本:Lars Norén
翻訳:Gunilla Anderman
デザイン:Sma Dowson
照明:John Harris
衣装:Katy Mills

出演:
Diane Fletcher (Margareta)
Osmund Bullock (Henrik, Margareta's husband)
Kristin Hutchinson (Ewa, their elder daughter)
Lisa Stevenson (Ann, their younger daughter)

☆☆☆(3.5くらい) / 5

プログラムによるとLars Norén(ラース・ノーレンと読むのだろうか)はスウェーデンの現代の劇作家としてはもっとも有名な人で、大陸諸国では高い評価を得ているそうだ。しかし、イギリスではあまり上演されたことがないようであるが、この作品を見ると、イギリス人観客向きではない気がした。

インターバル無しの1時間45分間、老夫婦と中年の娘2人のインテンスな家庭劇が続く。北欧作家なので、ベルイマンの映画やイプセンの家庭劇を思わせる。平穏そうに見えたミドルクラスの家庭の親子が抱える鬱積した不満やわだかまりをナイフでえぐり出すように徹底して暴き出した作品。これでもか、これでもか、と親子の対立が激化するので、段々単調になっていく感はあるが、非常に力強い劇。

一家の主人Henrikは豊かな医師。妻Margaretaと長らく(40年くらい?)平和な家庭を営んできたように見える。今夜は2人の娘が夕食に訪れている。長女Ewa(43才)は成功したキャリア・ウーマンで、大変豊かでスマートなスーツとエナメルのハイヒールのいでたち。大きな庭のある広い家に住んでいるらしい。妹のAnn(38才)は対照的な格好。デニムのオーバーオールに穴の空いた薄汚れたカーディガンとデザート・ブーツ、煙草を離さず、昔のヒッピーがそのまま大きくなったとう雰囲気である。Annは怪しげなバーでウェイトレスをしつつシングル・マザーとして子供を育て、劇作家を目ざしてもいる。大変苦しい生活でかなりストレスがたまっているようで、家族に不満をぶつける。まず、両親の隠された不仲、仕事熱心なHenrikの家庭軽視や結婚前から続くある女性とのプラトニックな交際と、夫の愛が感じられなかったMargaretaの不倫、Henrikの酒浸りや優柔不断、マザコンぶり等々が次々と暴き出される。更に、Annは父親が自分に性的な関心で"touch"したのではないかとの疑いも口にし、Henrikから激しい怒りを買う。何も問題が無いかのように見えたEvaも、不妊治療の繰り返しの失敗、養子縁組の破綻等で、人生に目的を失い、夫婦関係は冷え切っている。

冷たい風貌のEwaと、何かというと激しく毒づくAnn、娘達の言動にあたふたし、パンチバッグと化したHenrikを見ていると、『リア王』を思わせる。父娘関係の難しさを感じさせる劇。一般的に言って、父親は愛情表現が下手であるし、また、母親ほど無条件の強い愛を持っているとも限らない。普通、母親のように長い時間をかけた密なスキンシップがあるわけでもない。一方娘は少女の時は身近な男性の理想像として父親を意識する。その子供の時に感じられなかった父の愛への不満を、大人になって口にすることがあっても不思議ではないだろう。また、父と娘の場合、この劇でAnnが口にしたように、スキンシップがあれば性的な誤解(そうでなく本当の虐待の場合もあるが)を生んだりもして、感情のもつれは一層複雑になる。

この劇では、豊かで社会的地位のある医師の家庭の両親と、同様に豊かで仕事でも成功しているEwaに対し、貧しく、その日暮らしのAnnが強い劣等感をいただいていることも、ひとつの大きな発火点になっているようだ。ミドルクラスの家の子供として生まれながら、その生活レベルを維持できない者のストレスは大きい。一方、Ewaは、不妊による空虚感を豊かさでごまかしているのかもしれない、と思わせる。

こういう身も蓋もない、あからさまな内容の家庭劇は現代のイギリス人劇作家はあまり書かない気がする。イギリス人はここまで徹底的に表に出さないで、皮肉く笑い飛ばす国民だから。まして、(日本人であるためか)私から見ると、まったく異文化の人々の話という感じがする。プログラムに、この作家はO'Neillの影響を受けていると書いてあったが、アメリカン・リアリズムの激しさに共通するところがある。しかし、激烈な会話のやり取りがかなりの時間続き、緩急が乏しくて、熱演にも関わらず後半やや退屈してきた。観客としても、緊張感が続くのにも限度があると思えた。

演技は鬼気迫って大変素晴らしい。激しい会話を延々と続ける4人の俳優の力量、特にAnnを演じたLisa Stevensonの演技力には感心させられた。The Orange Treeのような小さい劇場にぴったりの内容の劇。この劇場は四角いステージを客席が四方から囲む形態の小さな劇場だが、あたかも他人の居間にたまたま居たら、もの凄い親子げんかが始まり、びっくり仰天したという感じであった。

写真はThe Orange Tree Theatre。




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