2011/05/20

オンライン・ジャーナルは開かれているか

(前回のポストについたコメントを読ませていただき、もうひとつ関連のポストを付け加えることにしました。なお、以下は原則として、人文分野、特に文学、歴史学などについてであって、他の分野のことは私はわかりません。)

日本でも多くの大学の紀要論文などは、オンライン化されるのが当然になってきた。おそらく国立大学では、国立情報学研究所のデータベースを通じてのオンライン化が強く奨励、あるは義務化されているのではないかと思う。サイトはこちら: http://ci.nii.ac.jp/

これは無料! 英米の学会や大学出版局などが出しているオンライン雑誌は高額で、一般読者がアクセスすることは大変難しい。グーグル(特に、グーグル・スカラー)などで検索にひっかかり、読みたいと思うことがある。Oxford University Pressなど、多くの学術出版社やその他学会等の研究団体では、pdfファイルを販売する手続きが整うようになった*。 それ自体は大変結構だが、十数ページの論文を読むのに、10-20ドルくらいかかったりし、決して安価ではない。ダウンロードしてみたら全く役に立たない事も多いのだから、こういう論文を常時購入できるのは、勤務先が払い戻ししてくれる人だけだろう。また、こういうオンライン・ジャーナルは大学図書館等が購読することを前提として運営されているが、日本の大学では、需要の少ない英文学の専門的なジャーナルを購読してくれるところはそう多くは無く、小さな大学や、大きな文学部のない大学の研究者は、個人で有料の雑誌論文をダウンロードすることを強いられるから、研究環境の差が大きなものを言う。この点では、日本の大学紀要論文等は、オンライン化されている場合には無料で誰でも読め、非常にお得である。但、上記のような大きなデータベースには無数の論文が玉石混淆で集められており、その中から自分にあった論文を捜すのは大変。適当な論文に出会うにはビブリオグラフィーの助けが必要だ。一方、審査が厳しく、かなり定評のある学会誌の場合は、内容のレベルもある程度担保されている点が良いのだが、人文分野では学会誌はオンライン化が進んでいないのが残念**。但、これにも幾つかの問題がある。例えば、大学の紀要と違い、個人の会員が多くはポケットマネーから数千円払って維持している雑誌の論文を、無料で配布して良いのか。やはりある程度料金を取り、雑誌の維持に役立てるべきではないか。しかし、そうした課金システムの構築はなかなか面倒である。また会員の中には著作権について細かな注文をつける人もいるだろうし、オンライン化への合意形成はそれ程簡単ではない。

英米でも、大学が主に所属教員や院生の為に作っているオンライン・ジャーナルなどは無料であったりするが、学術雑誌としての権威には乏しいだろう。

オンライン・ジャーナルが普及したために起きているひとつの問題は、印刷された雑誌が図書館で廃棄されていることだ。そもそも、元々印刷されていた雑誌が、オンライン版のみになってしまうケースも多いだろう。紙の雑誌は、オンライン・ジャーナルのアクセス権を持たない一般読者にとっては貴重である。地元の公立図書館などを通じて雑誌論文のコピーを取り寄せて貰ったり、紹介状を書いて貰い、大学図書館に閲覧に出かけたりすることが出来る。もちろん、各大学の学生にとっても、図書館に居る間に、プリントアウトしたり、目が疲れるのを我慢してパソコン画面を何時間も見つめなくても、紙に印刷された論文を読めた方が良い、という人も多いだろう。私は個人的には紙の雑誌の廃棄を大変残念に思っている。しかし、多くの図書館でスペースが無くて多数の書籍を廃棄しなければならない、あるいは新刊の購入を控えなければならない現状を考えるとやむを得ないのは充分理解出来る。それだけに、印刷された雑誌の廃棄の代わりになっているオンライン・ジャーナルへのアクセスの垣根を出来るだけ低くして欲しいとは思う。

最後に付け加えたいのは、オンライン・ジャーナル、そして書籍のデジタル化等の普及により、今まで以上に大学生の間にコピー&ペイストによるひどい剽窃が横行するようになった。紀要論文などを丸ごとコピーしてレポートとして提出したりする厚顔無恥な例も、大抵の大学の先生は経験しているだろう。ジャーナル利用に当たり、引用の仕方や註の付け方が不適切なのは、ほとんどの学生のレポートについて言えるのではないか。

*例えば、JSTOR (アメリカの学術雑誌データベース、"Journal Storage") などを通じてオンライン化されている。

**私は事情を殆ど知らないのではあるが、日本の学会誌でも理系ではオンライン化はされた専門誌が多いようだが、こちらは需要が大きいためか、有料でないと読めないようになっている場合が多いように見える。

2 件のコメント:

  1. こんにちは。前回と今回のポスト、大変面白く読みました。ロンドンに来てから心理学のコースに入り、そこで卒論を書いたときは、まだ資料がオンライン化されているのが少なくて、資料集めがとても大変でした。選んだトピックがその当時(おそらく今も)アメリカが主導で、興味を惹かれた学会誌が大学の図書館にないことが多くてブリティッシュ・ライブラリィにずいぶん助けられましたが、あそこのコピィがめっぽう高くて。

     現在終わらせようとしているワークショップでは、幸運にもある大学の図書館が使えて、そこのE-ジャーナルの充実振りが素晴らしくて8年の間に環境がずいぶん変わったことを痛感しています。

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  2. 守屋様、コメントありがとうございます。オンライン・ジャーナルを含め、出版のデジタル化は確かに研究者の便宜を非常に向上させましたね。ただ、アクセスは限定されていたり、高価だったりするので、研究・教育組織に所属していない人にとってのマイナス面もあり、Independent Scholarsと呼ばれる市井の研究者は苦労します。私も日本に帰国したら、困るかもしれません。

    アメリカは、大きな国ということもありますが、昔から心理学は盛んですね。日本でも、昨今は心理学の人気が高まり、就職には繋がりにくい学科なのに、大学の心理学科の志望者は多いようです。 Yoshi

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