2009/12/06

"Inherit the Wind" (Old Vic, 2009.12.5)


SpaceyとTroughtonの演技が光る法廷劇
"Inherit the Wind"
Old Vic公演
観劇日: 2009.12.5 14:30-17:00
Old Vic劇場: 

☆☆☆ / 5

演出:Trevor Nunn
脚本:Jerome Lawrence, Robert E. Lee
美術:Rob Howell
衣装:Rob Howell & Irene Bohan
照明:Howard Harrison
音響:Fergus O'Hare
音楽:Steven Edis


出演:
Kevin Spacey (Henry Drummond, the defense lawyer)
David Troughton (Matthew Harrison Brady, the prosecutor)
Ken Bones (Rev. Jeremiah Brown, a priest)
Mark Dexter (E. K. Hornbeck, a newspaper reporter from Baltimore)
Sonya Cassidy (Rachel Brown, a daughter of Jeremiah Brown, and the sweetheart of the defendant)
Nicholas Jones (Judge)
Sam Phillips (Bartram Cates, the defendant)

この劇は1955年に初演されたようだが、米国テネシー州のある町で1925年に行われた裁判に基づいている。当時テネシー州では、大学も含め、全ての公立学校で、ダーウィンの進化論を教えることが州法により禁止されていた。24歳の理科の教師、John Scopesが確信犯としてこの法律を破り、裁判にかけられる。この裁判は全米の注目を集め、H. L. Menkenを始め、多くのジャーナリストが取材に押し寄せ、更にラジオで全米で実況放送された。この劇は、人名等は変えてあるが、John Scopes裁判にかなり忠実に基づいているとのことだ。

劇の大半は法廷での検事と弁護士の丁々発止のやり取りに費やされる。検事はMatthew Harrison Brady。政治家として名をなし、大統領候補にまでなった有名人でこの裁判のために特別に町に喚ばれた。日本の裁判におけるような公務員の検察官とはシステムが違うようである。彼は、キリスト教原理主義的な信仰を持ち、その信念を貫くために熱弁をふるう。対する弁護士も、言論の自由のために各地の裁判に携わってきた著名な人物、Henry Drummond。David Troughton演じるHarrisonは、町の人々から裁判の始まる前に既に英雄扱いされる。裁判官とも親しくなり、最初から勝利したかのような勢い。しかし、そのエネルギッシュさに、どこか虚勢を張っているような弱さを感じさせる。一方、Kevin Spacey扮するDrummondは、百戦錬磨、粘り腰の強者。何しろ、裁判官が裁判を検察側に有利になるように導くので、弁護側の証人はことごとく不採用にされる。仕方なく、DrummondはHarrison自身を証人として喚問し、ふたりで、聖書に書かれている事実の相対性/絶対性を議論する。Drummondが、度々真面目くさったBradyの足下をすくい、笑いが起こる。

Kevin SpaceyとDavid Troughtonの名演技を法廷ドラマという彼らにぴったりの土俵を用意して、存分に披露して貰ったという感じだ。Spaceyは白髪の老人で、声音も少し変えており、懲りに凝った、「作った」役柄なのだが、不自然さがたちまち感じられなくなる隙のない演技。Troughtonは、人間の強さと弱さの両方を見せてくれるところが良く、終盤になってウィリー・ローマンのような面も見せる。

それにしても、この作品は社会派の劇なのだが、進化論を肯定するか否かという論点自体が、私には古色蒼然としたものに映る。ところが、未だにアメリカ合衆国では、ダーウィンの進化論は間違っている、あるいは、進化論は正しいかどうか分からず、未確定の諸説のひとつに過ぎない、と考える人が国民の半数程度いる(!)そうである。従って、この劇での論争は、現在のアメリカ合衆国では少しも終わっていないのである。作者のJerome LawrenceとRobert E. Leeが、1955年と、Scopes裁判から30年も経ってこの劇を書いたのは、そういう事情もあるだろうが、それ以上に、55年当時は、マッカーシズム(赤狩り)全盛の時期であったので、Arthur Millerの"The Crucible"同様、古い素材を使いつつ、赤狩りを批判したようである。昨今の合衆国におけるObama大統領批判の激しさ、そして盛り上がるSarah Palin人気などを考えると、この劇に描かれたアメリカ人の特異性は今日も続いていると思う。笑ってばかりもおられない。

明るいクリーム色のセットや背景も、役者達も、合衆国の田舎町の雰囲気を良く出していて、見た感じはミュージカル『オクラホマ』の舞台のようだった。Trevor Nunnの演出は軽い印象だが、Old Vicのビクトリア調の空間にはぴったり。脇役陣では、皮肉な北部人の新聞記者E. K. Hornbeckを演じたMark Dexter、裁判官役のNicholas Jonesが印象に残った。Old Vicの芸術監督であるSpaceyとしては、自分の演技力を十分利用し、確実なヒットと放ったと言えるだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿